マガジンのカバー画像

本の話

20
本の感想のような何かを書いています。
運営しているクリエイター

#読書

恥辱

恥辱

まえがき 今年もこの季節がやってきた。

 今年も発症してしまった。

 ハヤカワepi文庫の季節。

2024 今年はジョン・マクスウェル・クッツェー『恥辱』である。

 Disgrace / J.M.Coetzee (1999)
 鴻巣友季子 訳

 もちろん僕はクッツェーがどんな作家かは全然知らなかった。
 書店に行くと『ポーランドの人』という彼の最新作が売っているのが目につく。白水社のツイ

もっとみる
一年の始まりはハヤカワepi文庫を読まないといけない病に罹っている

一年の始まりはハヤカワepi文庫を読まないといけない病に罹っている

 宿痾である。

 書くのを忘れたけど、去年はラッタウット・ラープチャルーンサップの『観光』をよんだ。
 今年は『悪童日記』である。

悪童日記 Le grand cahier
 アゴタ・クリストフ/堀 茂樹 訳 (ハヤカワepi文庫)

 この作品は、ハヤカワepi文庫のおすすめ本を調べているといつも名前が上がる名作だった。なのでいつか読もうと想いつつもどこか敬遠していた。戦争の話で、重たいもの

もっとみる
読書する身体

読書する身体

――あるいは『数学する身体』の感想文的ななにか。

はじめに 世界のすべてを知るには人の一生は短すぎるし、知ることができても僕の脳ではそれを処理することはできない。そんなことを思って、人間の矮小さを感じる。世の中にはよくわからないことが無限にあって、すべて知ることが不可能にしても知りたいから本を読むのだ。少しだけでもわかった気になりたい。
 本をひとつ読んで自分の認識している世界が広がったとき、そ

もっとみる
一年の始まりに

一年の始まりに

 読んだ。今年も読んだ。

 今年はボリス・ヴィアン、『心臓抜き』
 過去を持たず、空虚な存在として生まれた精神科医、ジャックモール。
 彼はクレマンチーヌの出産を助ける。自らが産んだ三つ子を異常なまでに愛するクレマンチーヌ。でもこの世界には善も悪もないように見える。子供たちはそんな母親を嫌いも憎みもしない。空を飛ぶだけ。善意や悪意はあるかもしれないけど、去った夫アンジェルも、川に捨てられたものを

もっとみる
思うこと

思うこと

 twitterにも書いたけど、鷺沢萠『帰れぬ人びと』を読んだ。

 以前から読みたかった天才のデビュー作を含む短編集。その感想やらなんやら。

第一部『川べりの道』
 これがデビュー作。十八ぐらいの少女が書く文章じゃない。こんな文章が書きたい。そう思う。その圧倒的な才能に世間は皆嫉妬した。でも解説に書いてあるように、十代の終わりの大人になる前の老成した感覚(そんなものあったか?)をもって描かれて

もっとみる