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雪の日

こんにちは、函館移住者の花です。

今日は、吹雪の中、谷地頭の喫茶店クラシックにいったお話をします。

大学でロシア語を専攻し、カザフスタンにオンライン留学をしている私と近い境遇の持ち主に出会うことができました。今回はいつもに増して詩的な文章になっていますが、私の眼をとおして楽しんでいただけたらと思います。

時計を見ると午後3時。
すりガラスの窓からも吹き付ける雪がはっきりと見える。
こんな日に歩いてみるのも悪くない。

風が強すぎて、時々立ち止まって足を踏ん張る。
風は私をどこへ連れ去ろうとしているのだろう。
粉雪で踏み固められた道、ミシミシと音がする。

ほっかむりを被ったおばあさん。たくあんを袋に詰めながらお友達と話している。

昔はねえ…昔はねえ…


チワワを抱っこして歩くおばあさん。
着せられた服のフードが目の辺りまで垂れて、寒いのか眠いのか、おばあさんの腕の中で眼を細めて微睡んでいる。

お爺さんと柴犬。
ほっほっと足取り軽く雪の上を弾んでいる。
軽く雪を舞わせて、小さな穴を残していく。

おじいさんが歩き去った後、こっそり雪の上にふたりが置いていった名残りを眺めた。

ドアを押すとカランと音がした。
常連さんはいるかな?

暖かい店内にお客さんたち。
カウンターで、奥の席で、それぞれの時間を過ごしている。
お店の人たちとお話しようかなと思っていたけれど、それはまた今度かな。

通りが見える窓側の席に腰掛ける。
日の暮れて深い青に染まっていく空。

結露した窓の水滴がつーっと線を描く。
その窓に映る蜜柑色の照明。
向かいの花屋さんも窓越しにモネの油絵みたいになっている。
丸い電球。
フィラメントが電球の丸いガラスに映ってネックレスみたいに見える。

コーヒー豆がぶつかり合う。
クリームをかき混ぜる。
タプタプと音がする。

足取り軽く入ってきたおじさん。
今日はお酒飲みたいな〜、なんて。

カウンターの席で話し声が聞こえてくる。
カザフスタンの…学生さん?蒲生さんのところで…

電話で席を外した長靴のおじさんが店に戻ってきた。
お店の店主さんが、花ちゃんに紹介したくて、とおじさんを紹介してくれた。

濃く温かい目の奥に光を宿している、北国の男の人。冬は除雪の仕事をしながら、カザフスタンで養蜂をやるために、極東大学でロシア語を勉強している。

カウンターがささやく。
ロシアってここより寒いの?
こんにちはって、なんだっけ?
スパシーバじゃない?
寒すぎて口開かなそうだよね。

北国のおじさんが言った。
極東大学行ってみたら良いですよ。
四国からの大学四年生も、3ヶ月前に函館に移り住んで潜り込んで授業受けているんですよ。先生はロシア人ばかりでかなり良い環境だと思いますよ。プロレスラーみたいな先生がわかるまでしっかり教えてくれますよ。お金はかかるけどね。

お店のお兄さんが、私たちをちらっとみながら、静かにポトフを彼の席に置いた。


カザフ、行きましょう。
現地で出会えたりして。

北国のおじさんはポトフの元へ戻っていった。

いや、感動ですよ、カザフスタンの…

珈琲を挽く音がカーっと耳に通り過ぎる。

お酒がいい感じに回ってきたおじさん。
ミックスナッツもお願い。

おっとりとした女の人が立ち上がった。
そろそろ帰ろうかな。
歩きだから遅くなりすぎないように帰らないと。

いいよ、送っていくよ?
隣のおじさんがナッツを片手に答える。

え、送ってくって言ったって歩きでしょ?
それに飲んでるし。
穏やかな笑い声が響く。

息子さんイケメンですか?
いやぁ俺の若い頃にそっくりなんだよ。

とくらって色男を輩出する学校なのかな?

金髪の息子に言ってやった。
お前な、その髪型よ。今しかできないから好きにしろって。

おれのにいちゃんも金髪の時は格好良かったのさ。自慢してたのに、社会人なって黒髪になって気持ち悪くなったのさ。

帰るのかい?
セブンイレブンに寄ってくんだって。
セブンイレブンかい?セブンイレブンのシュークリームは、美味しい。
おじさんは渋い声で謳って帰っていった。

同窓会で昔の彼女に会った話。

ふと横を見ると本が何冊か置いてあった。
エストニア紀行、センスオブワンダー。

1番端、長田弘の詩集だ。
思わず手に取って、真ん中のあたりを開く。
おおきな木。
前のページの木の絵が透けて見える。
彼と同じ木の下に立って、同じ沈黙の中に佇む。
彼と同じ景色を見ている。

コップを撫でる水の音。

古時計が6時を鳴らした。

30代は飛ぶようにすぎたけど、40代になると自分が今40何歳なのかわからなくなってくるんだな。

な、スタンの繋がりが見つかるなんて、神様に行きなさいって言われているとしか思えないな。

どちらが先に行けるか楽しみですね。

おれだって負けないからね。
空港で会ったりして。
走ってね、俺が先に着いたぞー、なんてね。

ただ旅行だけして帰ってきたりしてな。
いいんですよ。
今じゃなかったってことで。

でも不思議なもんだよ。
前もここで、ウズベクで青年海外協力隊の看護師してましたって人がいたんだよ。
ねえマスター、ここは何かがあるんだよ。
引き寄せてんだよ。

また電話がかかってきて、おじさんは雪の中に帰っていった。

窓の向こうに目をやると、雪だるまが一人でトラックを見上げていた。

ライター情報はこちら!
https://note.com/another_hkdt/n/nab69fbc73ee5

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