付加価値が生まれる対話を作るには
小さな会社ではあるのですが、インターネットの海に旗を掲げていると、営業のメールが届いたり、電話がかかってきたりします。時にはちょっとした好奇心が生まれて、お会いすることもあります。
結局のところは具体的なお話にならず、お仕事の話はお断りすることがほとんどです。でも、そのなかでも会ってよかったな、と思えることがあります。
それは、私の話を聞いてくれたときです。
どんなことをやっているんですか?
なんのためにやっているんですか?
事業を始めたのはどういうきっかけだったんですか?
これからどうしていきたいと思っていますか?
そのために必要だと思っていることは何ですか?
自社ではこんなサービスを展開しているんですけど、御社に対してどんな貢献ができそうですか?
こうしたことを、じっくりと、しっかりと聞いてくれると、この人が来てくれてよかったな、と思います。いまはお願いする仕事はないけれど、しかるべき時期が来たら、必ずこの人に連絡を取りたいです。
真逆の営業の方もいらっしゃいます。
自社のサービスはこんな特徴があります。
こういうところが顧客に評価されています。
実績がこんなにたくさん!
御社でも使ってみてはどうですか?
自分の会社や自分のことをずっと話しています。私は聞くのが商売ですから、もう条件反射的に最後まで話を聞いてしまうのですが、その人が帰ったあと、塩を撒きたくなります。その時間、返してほしいです。
「理解しようとしているか」が違いを生む
この2つのケースは何が違うのでしょうか。シンプルです。自分のことを聞いてもらえて、自分のことを話せたかどうか、です。
自分が考えていることを聞いてもらえることは、つまり自分のことを理解してもらえるということです。自分のことを理解しようとしている人を、嫌いになることはできません。
前者の営業の方は、私のことを理解しようとしてくれたわけで、それが「もう一度会ってみてもいいかな」という信頼関係の第一歩につながっているのです。
一方、後者の人と接したときに浮かんでくるのは、「私のことを何も知らないくせに」という思いです。私のことを何も知らない人が、どんな提案を持ってきたとしても、それを受け取る気にはなりません。人間はそんなに単純な動物ではないのです。
付加価値の生まれる対話を実現するためには、そもそもの前提として、相手のことを理解しようとしているというスタンスが不可欠です。それが具体的な行動として表出した結果、聞くという行為になっているだけです。
あいづちやうなずき、身を乗り出して聞く、など、いわゆるよい聞き手のやっていることを、スキルとしてまねるだけでは空々しくなるだけです。
相手のことを理解しようとして聞いてもらえているときに生じることは、信頼感の高まり以外にもうひとつ重要なことがあります。
聞いてもらうことのもうひとつの重要な効果
それは、話しながら考えが深まる、という現象が生じることです。人間は、効果的に思考を深めるために、考えていることをアウトプットして、そのアウトプットしたものを改めてインプットするという行為を行っています。
具体的には、考えたことを口に出して、その音声を自分の耳で聞いて、自分が考えたことを理解し直しているのです。あるいは、考えたことを文字や図形にして書いてみて、その書かれたものを目で見ながら思考を積み上げているのです。
アウトプットしたものをもう一度インプットして理解を深めることを、「オートクライン」と言います。もともとは生理学の用語ですが、コーチング用語としても使われます。
対話においてちゃんと聞いてくれる人がいると、話しながら過去の体験を思い出したり、アイデアが浮かんだり、思考が深まったりします。。
冒頭のちゃんと聞いてくれる人のケースでは、私の心のなかではさまざまな化学変化が起こっていました。
そういえば、創業のときの思いはこうだったなあ。
今日まで、クライアントの組織そのものに変化をもたらすことができているし、確かに価値のあることを自分はやってきたと思う。
ただ、評価してくださるお客さまが紹介してくださるお客さまだけでは、自分が引退するまでに日本企業の組織が変わるとも思えない。
第一線で働ける残りの10年あまりで、より多くの組織の質そのものを変えていきたいし、仲間を増やさなくては。
といったことを考えていました。そのひとつの形がこのnoteを書くという行為になっています。オートクライン、恐るべしです。確かに対話によって付加価値が生まれました。こういう対話を実現してくれる人だったら、ぜひ時々話をしに、いや、話を聞きに来てもらいたいものです。そして、そういう人と一緒に仕事をしたいのです。
付加価値が生まれる対話を作るには
まとめると、対話において付加価値を生み出すには、相手のことを理解しようとするスタンスが必要だ、ということです。そうすれば、そこからオートクラインが起こり、付加価値が生まれます。
逆に、理解しようとするスタンスがなく、自分の主張をいかに通すかというスタンスでいくら会話の時間を重ねてみても、それはお互いにとって苦痛な時間でしかありません。
さて、これをチームのマネジメントに活かすとすれば、具体的にどうすればいいのでしょうか?
次回は、付加価値の生まれる対話を組織に埋め込むための考え方についてお伝えします。
前回の記事はこちら