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もてなされる、という伝統芸能

「お腹いっぱいで食べきらないわ」
「そしたら おむすびにしておきましょうか」
旅館の廊下で仲居さんと老夫婦の会話が聞こえてきた



先日、福井県のある旅館に宿泊した
高級宿という訳ではなかったけれど古くから温泉で栄えた土地にある
老舗の旅館


部屋に担当の60代後半くらいのベテランの仲居さんがつき、
お茶を淹れてくれたり、夕飯の支度をしてくれたり、
不自由なことは無いか聞いてくれたり
会話のテンポも心配るポイントも慣れていて心地いい

旅館の ”仲居さん”という職業も、日本の伝統文化のひとつだ
それ故、守らなければこのままだと途絶えてしまう
そんな気がしてならない

わたしがこどもだった頃
やっぱり 仲居さん という職業が、旅のおもてなしを
担っていた
温泉宿にはたくさんの仲居さんと宿泊客がいて
活気にあふれ、子どもながらに家族で精一杯の ”おもてなし” のこころに
触れさせてもらえたことは有難いことだった
と改めて感じる

この接待を、間近で見てこころと身体で受け取った者にしか
この伝統的な技を、受け継げるものはいない

その技は、次の仲居さんへ受け継がれる以外にも
家族へのもてなし、来客へのもてなし、会社の接待などで
知らず知らず活かされる

「より安く」 が一番のサービスとなってしまった近頃のムードでは
仲居さんは、宿にとってカットされてしまう仕事のひとつのようだ
明らかに仲居さんたちの数が少なく、ガランとしていて
ひとりのスタッフがいろんな仕事も兼業しているように感じた

支払いもフロントではなく、機械にお任せのセルフのところも増えたらしい

近い将来 "もてなしてもらう" なんてよほどの大金を払わない限り
やってもらえなくなるのだ


あの仕事が不要であるとせざるを得ない温泉町
なんて
わびしく廃れていく
そんな気がしてならない


チェックアウトの朝
部屋をとっくに出て、旅館の日本庭園をうろうろして

変なタイミングで旅館を去った
にも関わらず、どこで分かったのか見送りには担当してくれた仲居さんが
出てきてくれていて うれしい気持ちになった

「より安く」のために
とんでもなく残念でもったいない何かを捨てていることに気づく頃には

”おもてなし”を受けたことのある世代も
多く残っていないのだろう


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