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図書館で借りた本の記録

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記事一覧

それぞれの生 『ストーナー』

それぞれの生 『ストーナー』

 ジョン・ウィリアムズの『ストーナー』という小説を読んでいる。ストーナーという男の人生を淡々と描写している本だが、読んでいるとアイツの人生は華やかで楽しそうだな、それに比べて自分は、などと他人と比べたり羨ましがったりすることがバカバカしくなり、ちゃんと自身の生活を見つめながら生きるのがいいんだという気分にさせてくれる稀有な小説だ。話に派手な起伏や情熱的な会話シーンや意外な展開などはなく、若きストー

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ネタばれあり感想・三津田信三『怪談のテープ起こし』『のぞきめ』『みみそぎ』

 ホラー小説です。最初に断っておくと、文句を言いつつも三津田信三が書く怖い話は(もちろん作品にも依るが)わりと好きです。この三作を挙げたのは、最近たまたま目について読んだからです。面倒なので感想を書くにあたって改めて本を開いて細部を確認などはしません、今頭の中に残っている印象だけで書きます。

『怪談のテープ起こし』
 今回読んだなかでは一番好きです。自殺者の遺言音声をかたっぱしから集めて書き起こ

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読書記録『ロシア点描』小泉悠

読書記録『ロシア点描』小泉悠

大学図書館の一画にロシア・ウクライナ情勢コーナーがあって、その中で目に付いたので借りた本。著者はロシア軍事が専門で実際にロシアで生活し人々の暮らしをみてきた経験がある人物で、テレビ番組やYoutubeでロシア情勢についてわかりやすく解説しているのを見聞きしたことがある。

 ポップな表紙のとおり、かなりとっつきやすい構成になっている。初版の発行は2022年5月となっており、ロシアとはそもそもどんな

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感想『犬神家の一族』

小説のほうです。私のように謎解きや推理小説に苦手意識があったり馴染みがなかったりする人でも楽しく読めるのではないかという印象を持ちました。とにかく話運びが巧みで情景描写のテンポとバランスがよく、登場人物たちの感情のやりとりや場面転換に惹きつけられているうちに最後まで辿り着いて、素直に「うわーおもしろかった!」という読後感が味わえます。
身寄りのない貧しい身から一転、事業で大成功を収め巨万の富と名

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世界こわい話ふしぎな話傑作集 20『森の怪人』レスコフ

世界こわい話ふしぎな話傑作集 20『森の怪人』レスコフ

 金の星社から刊行されている世界こわい話ふしぎな話傑作集(全20巻)を片っ端から借りて読んでいます。現時点で未読のものが13巻あります。今回読んだ第20巻はロシアのニコライ・セミョーノビッチ・レスコフが書いた『森の怪人』という中編がひとつだけ収録されています。

表紙絵を見た瞬間怪人だと恐れられていた人が実はいい人だったというような話なんじゃないかと想像しましたが、だいたい合っていました。豊かな自

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世界こわい話ふしぎな話傑作集 19『古い屋敷に残された話』

世界こわい話ふしぎな話傑作集 19『古い屋敷に残された話』

 最近、昔読んでいた子供向け怪奇小説集を図書館で借りて読書記録を書くということをやっています。今回読んだ第19巻はアイルランドのレ・ファニュが書いた作品が2つ収録されています。これより前に読んだ巻にも同作者の短編が載っていましたが、おしなべて幻想的な作風と繊細で豊かな風景描写が持ち味だという印象です。どの話にも教訓的な要素が含まれているのが特徴で「怖い、不気味、訳が分からない」という感じではなく「

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世界こわい話ふしぎな話傑作集 15『毒草の少女』ほか

世界こわい話ふしぎな話傑作集 15『毒草の少女』ほか

↑過去に読んだこのシリーズの記録
出版社は「金の星社」

↓今回読んだ本

世界こわい話ふしぎな話傑作集15『毒草の少女』ほか
アメリカ編 山主敏子 訳・文著名な作家であるナサニエル・ホーソーンの短編が2つ収録されている。この本では表記ゆれの範疇でホーソンと書かれているので、以降それに倣う。

『毒草の少女』ホーソン作
…主人公の青年ジョバンニが庭園で出逢い恋した美しい少女は、父親であるマッドサイ

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世界こわい話ふしぎな話傑作集 5『モルグ街の殺人』ほか

世界こわい話ふしぎな話傑作集 5『モルグ街の殺人』ほか

 先日読んだシリーズは下記の通り。
世界こわい話ふしぎな話傑作集7・10・17|khufuou|note

『モルグ街の殺人』ポー原作 岡上鈴江 訳・文
第5巻 アメリカ編 怪奇小説で有名なエドガー・アラン・ポーの短編が6つ収録されている。

『黒ネコ』…仲睦まじい若夫婦が黒猫を飼いながら住むお屋敷が舞台だが、夫が次第にアルコールに溺れ怒りっぽく凶暴になっていく。ふとした弾みでカッとなり黒猫を殺そ

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推理小説がさほど好きではないが推理小説を読む

好きでない理由としては、頭が悪くて謎解きができないということと、作者におちょくられている気がしてだんだんムカついてくるからという二点である。鬱状態の人は推理小説を読めとライフハックのように言われているのを見たことがあるが、私はホラーとかたくさんの人が死んだり不幸になったりする話のほうが好きだ。とはいえ、人は好きなものだけに触れていては生きていけない。先日、図説・世界の名推理小説一覧みたいな本を借り

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読書記録 『教科書に載った小説』佐藤雅彦 編 ポプラ社

 表題の通り、色んな国語教科書に載った短めの小説が佐藤氏のセンスでまとめられている。芥川龍之介の『雛』を除き知らない作品ばかりだったので新鮮な気持ちで読んだ。各作品について出典以外の解説は特になく、権威者の解説に影響されることなく自由に読んでほしいというはからいを感じる。おもしろいと感じた話も、それほどピンとこなかった話もあった。特に印象に残った話についてだけメモをのこしておくことにした。

『と

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世界こわい話ふしぎな話傑作集7・10・17

世界こわい話ふしぎな話傑作集7・10・17

 子供の頃は金の星社から出版された『世界こわい話ふしぎな話傑作集』を読んでいた。世界各地の短めな怪奇小説を国ごとに編集して子供向けに読みやすくしたもので、全20巻ある。ふと懐かしくなって探したら市内の図書館にあったので、とりあえず今も覚えている3冊を借りてみた。

『夜歩く手』モーパッサン原作 榊原晃 訳・文
第7巻 フランス編『ゆうれい』…旧友に頼まれて古い屋敷へ手紙の束を取りに行った軍人が女の

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scp-7726と『銀河ヒッチハイク・ガイド』

scp財団(色んな人がある程度設定を共有して創作話を披露しあうサイト)で読んだscp-7726『さようなら、いままで魚をありがとう』が気に入ったのだが、タイトルのフレーズが『銀河ヒッチハイク・ガイド』というラジオドラマ或いは小説からとられていると知って興味が湧き、ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』を併せて読んだ。

scp-7726報告書は、一見普通の機能を備えているが人が発砲対象と

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堀江敏樹『紅茶屋のつぶやき』感想

 たしか関西にある有名なティールームだか紅茶店だかの店主が書いた、紅茶にまつわるエッセイ集だ。豊かな紅茶文化を日本に広めたい・おいしい紅茶の提供をきわめたいという志をもって、紅茶の産地まで出かけて行って茶園の様子を見たり現地の紅茶文化に触れたりという行動力もあるガチの紅茶人(?)が書いた貴重な見解が読める。街のいろんな喫茶店に出掛けて紅茶を頼んでみるとどうも小難しい作法や見た目の華麗さにこだわって

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クルコフ『ペンギンの憂鬱』感想

なりゆきで憂鬱症のペンギンと暮らしている売れない作家(主人公)が、未来の死者のための追悼文を書くという仕事を始めてから不穏な出来事に巻き込まれはじめるというストーリーだ。色んな人が出てくる。一緒に出かけたり食事をしたり会話をしたりピクニックをしたり交流をする。事情あってひき取った知り合いの少女とその世話を頼んだベビーシッター(赤ん坊相手でなくてもそう呼ぶのだろうか?)に至っては家族のようにひと

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