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世界こわい話ふしぎな話傑作集 15『毒草の少女』ほか

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出版社は「金の星社」

↓今回読んだ本

世界こわい話ふしぎな話傑作集15『毒草の少女』ほか
アメリカ編 山主敏子 訳・文

著名な作家であるナサニエル・ホーソーンの短編が2つ収録されている。この本では表記ゆれの範疇でホーソンと書かれているので、以降それに倣う。

  1. 『毒草の少女』ホーソン作
    …主人公の青年ジョバンニが庭園で出逢い恋した美しい少女は、父親であるマッドサイエンティストな教授が研究のため幼女時代から毒物を与え猛毒体質に育てあげた恐るべき存在であった。彼女が近寄った植物や動物はその強力な毒気にやられて萎れたり斃れたりしてしまうのだ。少女は自分が毒まみれの被験者であるという宿命を知っているので普通の人間とは関わらないように生きてきたのだが、愛するジョバンニと一緒にいたい気持ちとその宿命との間で激しく葛藤する。彼女との度重なる逢瀬で毒気にやられてかなり衰弱してしまったジョバンニの方は、彼女の恐ろしい体質を忌む気持ちとなんとか彼女を救えないのかという気持ちに引き裂かれ苦悩する。この二人の葛藤が交錯するところが大きな見どころだと思う。

  2. 『呪われた外套』ホーソン作
    …とても美しいエレノアという名の女性が、後見人にあたるマサチューセッツ州知事を頼ってイギリスからアメリカへ渡ってきた。彼女は自身が貴族の血筋であることを誇り、平気で他者を見くだす傲慢さを持っていた。エレノアの美しさはたちまち人々の噂となり、彼女が持ってきた豪奢な外套を纏うと一層その美しさが際立つともっぱらの評判であった。ここで、イギリスでエレノアの美しさにあてられたうえに彼女の人を人とも思わない仕打ちで気が狂ったようになったという青年が登場する。関係者の話によると、彼女に執着するあまりアメリカまで追いかけてきたのだろうということだ。この青年が、「美しくても貴族でもあなたは所詮我々と同じ人間なんですよ。果たしてそんなに傲慢でいいんでしょうか?」という主題を提起するキーパーソンとして機能する。青年はエレノアにその呪われた外套を焼き捨てなさいと詰め寄るが、もちろん彼女は鼻で笑って相手にしないしお付きの者たちからつまみ出されてしまう。ところが、彼女が持ってきた外套には天然痘をもたらす病原体が潜んでおりエレノアをはじめ町の人々が天然痘で倒れてゆく。どういう事情かは詳しく分からないが、半狂いの青年はエレノアの外套を縫った下働きの女を介して天然痘の病原体がこの町に持ち込まれて拡散していることを知っていたようだ。症状で顔が醜く崩れてしまったエレノアを前に、青年は「みんな姫のために死んだ。最後に姫がみんなと同じ病気になって死ぬとは、けっこうなことだ」と高笑いすると件の外套を持ち去り、たいまつの火で焼いてしまった。その時を境に疫病の勢いはやっと衰えていったという。この話もポーの『赤死病の仮面』と同じく平凡社の『疫病短編小説集』におさめられている。人間の平等性を問う寓意に富みつつも幻想的な雰囲気を漂わせる、美しい短編だと思った。

  3. 『上段ベッドの怪』フランシス・マリオン・クロフォード作
    …客船を舞台にした正統派怪談という趣の短編で、素直に楽しめた。いわくつきの船室で怪奇現象が起こり、勇敢な船客と船長が退治を試みるが失敗し大怪我を負わされてしまう。今では問題の船室は大量の釘を打ち込んで誰も入れないようにしてある。その船は今も航海しているが船長はあの船をおりてしまったし、僕も二度とあの船には乗らないつもりだ……。といういかにも怪談的な締めくくり方で嬉しくなってしまった。

  4. 『あれはなんだったのか?』フィッツジェイムズ・オブライエン作
    …噂のお化け屋敷で男たちが謎のお化けに立ち向かうという、これもまた正統派怪談だ。その化け物は確かに質量をともなっているのだが、透明で姿は見えない。男二人がかりで透明お化けを組み伏せるのだが、さてこっからどうすればいいんだ?となってしまう。石膏で型をとってみたり、思いつく限りの食べ物を与えてみても食べようとせずみるみる衰弱していく化け物の様子に慌てたり悲しくなってしまったりと、後半は滑稽譚の様相を呈してくる。怖いというよりはユーモラスな感じでウケてしまった。

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