堀江敏樹『紅茶屋のつぶやき』感想

 たしか関西にある有名なティールームだか紅茶店だかの店主が書いた、紅茶にまつわるエッセイ集だ。豊かな紅茶文化を日本に広めたい・おいしい紅茶の提供をきわめたいという志をもって、紅茶の産地まで出かけて行って茶園の様子を見たり現地の紅茶文化に触れたりという行動力もあるガチの紅茶人(?)が書いた貴重な見解が読める。街のいろんな喫茶店に出掛けて紅茶を頼んでみるとどうも小難しい作法や見た目の華麗さにこだわって「おいしく豊かにお茶を飲む」というシンプルな目的から遠ざかっている気がするとか、後づけの些末な掟を振りかざして作法にダメだしするようなティーインストラクター文化が一般人を紅茶に親しむのを阻む障壁となっているとか、茶器の高価さや茶葉のジャンピングにやたらこだわるのは無意味とか、なるほどと思う一方、いまの日本の紅茶文化に関しては憂えている部分が大きいのかなこの書き手は。という印象を持った。ペットボトルの紅茶、レモンティー、フルーツなどを入れたアレンジティー(あと、おそらくアイスティーも)に対しては拒否感をあらわにしており、少ししょんぼりした気持ちになった。私はそれらの紅茶飲料も好きなので。だいたい面白く読めて勉強にもなったが、著者があまり良いと思ってない物や文化に対して見せるとげとげしさに辟易する読者もいるかと思う。「仕事でティーインストラクター数名を自分の喫茶店に集めて打ち合わせをしたら、最初に紅茶を注文した人が1名しかいなくて、それどころか最後までアイスコーヒーしか飲まない奴もいる始末。なにがティーインストラクターだ。アホ」と(さすがにもっと柔らかい表現だった気がする)怒っているくだりを読んだときは笑った。

茶器は安物でオッケー、なんならマグカップでも十分、茶葉をティータイムの終わりまでポットに入れっぱなしにすることはさほど問題ではなく濃くなったらお湯で薄めればいいだけのこと、ジャンピングしない茶葉もあるのでジャンピングにアホみたいにこだわるな、ティーバッグのお茶はふつうに便利でおいしい、お湯の温度をさげずにじっくり茶葉のエキスを抽出しさえすればOKなので細かいことはあまり気にするな、などの指南は参考になった。

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