scp-7726と『銀河ヒッチハイク・ガイド』

 scp財団(色んな人がある程度設定を共有して創作話を披露しあうサイト)で読んだscp-7726『さようなら、いままで魚をありがとう』が気に入ったのだが、タイトルのフレーズが『銀河ヒッチハイク・ガイド』というラジオドラマ或いは小説からとられていると知って興味が湧き、ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』を併せて読んだ。

scp-7726報告書は、一見普通の機能を備えているが人が発砲対象となった時に限り弾詰まりが起きる銃と、それを利用して部下の自殺を思いとどまらせる利益第一主義な研究組織が描かれている。大雑把に説明すると

・scp財団は異常かつ危険な現象・生物(?)に日々囲まれているので、仕事仲間が事故でたくさん死ぬことは日常茶飯事。
・生き残った職員は「なぜ皆が死んで自分なんかが生き残ったんだろう。自分が犠牲になるべきだったのに」と気に病み、退職を希望したり業務が手につかない状態(自殺衝動に駆られたりとか強い鬱状態とか)になったりすることが多い。上層部としては優秀な人材をむざむざ失いたくないので、例の銃を利用することになる。
・対象者がもう本当に自殺しよう、と行動にうつす段階まで静観し、手の届くところにわざと例の銃を放置する。
・対象者は例の銃で自殺を試みるが、その性質上100%弾詰まりで失敗し「生きながらえてしまった、これも神の思し召しなのか……?」という心理状態になるので、そこを集中セラピーで畳みかけて「がんばって生きて働こ」状態までもっていく。この手順は職員の喪失防止に極めて有効であることが証明されている。

という内容で、ディスカッション欄で作者が「10代の頃友達が2人銃で自殺したことと、自身が銃で自殺しようとした時に弾詰まりを起こして失敗した経験をもとに書いた。もしかしたら自殺についての描写が創作サイトの倫理基準に抵触するかもしれないけど、それでも書かずにはいられなかった。消されたら消されたでいいと思っている。疲れてしまったので今後は創作活動はしばらく休みたい」と書いていて切ない気持ちになった。「タイトルと文中(登場キャラクターの遺書)に出てくるいままで魚をありがとうというフレーズは、自分が実際に遺書の最後に書いたものだ。つまり私は子供の頃からどうしようもないナード(英語で特定の文化に詳しいオタクを指すスラング?)だったということです」とも書いている。

「さようなら、いままで魚をありがとう」とは、『銀河ヒッチハイク・ガイド』中で実は人類よりはるかに優れた知能をもち人類に地球滅亡の警告を発していたイルカたちが、イルカたちのメッセージを単なるエサ欲しさの曲芸としか受け取ってくれない愚かな人類に諦めとともにのこした最後のメッセージである(そのメッセージすらも人間の目には愉快な曲芸にしかうつらなかったわけだが……。ちなみに、賢いイルカたちはいち早く地球を脱出し滅亡を免れている)。英語圏ではある地位から退いたり事業から手をひいたりする時に気の利いた別れの挨拶としても使われるのだと注釈に書いてあった。

一方『銀河ヒッチハイク・ガイド』はおもしろい発想と皮肉っぽいユーモアが満載のSFコメディで、気楽に読める感じだった。眠たくなったので明日以降感想を記録する。

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