クルコフ『ペンギンの憂鬱』感想

  なりゆきで憂鬱症のペンギンと暮らしている売れない作家(主人公)が、未来の死者のための追悼文を書くという仕事を始めてから不穏な出来事に巻き込まれはじめるというストーリーだ。色んな人が出てくる。一緒に出かけたり食事をしたり会話をしたりピクニックをしたり交流をする。事情あってひき取った知り合いの少女とその世話を頼んだベビーシッター(赤ん坊相手でなくてもそう呼ぶのだろうか?)に至っては家族のようにひとつ屋根の下で暮らすが、主人公は同居のペンギンを含め誰とも親密というか、そこまで心通わせる感じにはならない。場面場面の雰囲気や情動をちょっとの間共有しているだけに見える。意図的に各キャラクターの心理描写を掘り下げ過ぎないようにしているようにも思えた。物語の世界情勢は全体的に不穏で、戦争や事件等でわりと簡単に人が死んでいく。仲良くなりかけてた人たちも死んでいく。小説を読み慣れていると「この小説はここを軸にして読んでいけばいいな」「このキャラクターが重要人物で、主人公にとってかけがえのない存在になっていくだろうな」と自分の中で落とし所を作るクセができてくる。たとえば主人公の死生観、反目し合っていた者たちに芽生える友情、ペットのかけがえのなさ、命の大切さ、恋愛の難しさ、悲しみを乗り越えて生きていく勇気などなど。『ペンギンの憂鬱』はそういう点でどこを取っ掛かりにして読み進めるか決めかねるようなところがあり、物語中をふわふわ漂いながら場面転換に身を任せざるを得ないような、不思議な感覚を味わった。生きることの孤独感や所在なさ。

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