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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2023年5月の記事一覧

王女と新聞記者の恋:Anizine

外国の人と好きな映画の話をしていて困るのは、題名がわからないことだ。たとえば『ローマの休日』という映画の原題は『Roman holiday』。これなら伝わるが、好き放題に邦題をつけられていると困ることになる。『Billy Elliot』が好きだと言われて、こちらは『リトル・ダンサー』を観ているのに思い浮かべることができないので、知らないと答えてしまう。 題名というのは顔だから、原作者や映画監督やプロデューサーが考えに考えて、物語を伝えるためのベストな言葉を選んだ結果がタイト

メインランドから:Anizine

よくないタクシーはまず止めたときからわかるのだが、利き手を挙げたこちらを発見し、車線を変更したりして停車するまでの所作が乱暴な人は一事が万事、である。やや通り過ぎて「乗るならここまで歩いてきて」感が漂ったりする。まあそこでいらつきもしないんだけど、その手の人は行き先を告げても返事がなかったり、運転が乱暴だったりする。急発進と急加速、特にイヤなのが、止まりそうになったと思った瞬間に加速するやつ。心構えができていないからつらい。5分の乗車でもゲボが出そうになるので、吐き気と戦う。

パピヨンおじさん:Anizine(無料記事)

おじさんという、ほの暗い水の底に沈むコンテンツには辟易している。自分も40才を過ぎて中年にさしかかっているのだが、「おじさん」を自覚したときには心して選ぶべき、分かれ道という名の分岐点がある。川沿いリバーサイド方式を採用しながら。キッチリした「おじさん道」を堂々と歩む者もいれば、若作りにいそしみ「おじさん構文は嫌われる」などといった、くだらないネット記事を読んで若者の反応ばかり気にする者もいる。 しかし、しかしだ。 生物学的に言うと「おじさん」というのは蛾のようなものだか

永遠に混ざらないドレッシング:Anizine

ソーシャルメディアではあらゆる人の振る舞いをつぶさに観察することができ、それらを注意して見ることは自戒のヒントになります。 あなたがソーシャルメディアをする理由は何でしょう。友だちや親戚との連絡の目的、これはとてもわかりやすいですね。電話などの代わりとして機能しています。この穏健な使い方はごく少数かもしれないですが、遠くに住んでいるおばあちゃんが孫の写真を見たい、などというほのぼのした使用法です。「ケンちゃん、入学式だったのね。大きくなったね。また遊びに来てね」などというコ

分配の構造:Anizine(無料記事)

この状況が落ち着いてからまだ4回しか海外には行っていませんが、とにかく「物価の違い」に愕然とします。日本がもはや先進国扱いではないことはさておき、数十年も賃金が上がっていない国は日本だけです。国の経済が落ち込んでいるわけではないので問題が「分配の構造」にあることは明白です。 先日、ある人からヨーロッパの物価について聞かれました。去年から今年にかけてドイツ、オーストリア、フランス、アイスランドなどに行って、それぞれの国による違いも感じました。あまり間を置かずに行っているのがフ

スランプなどない:Anizine(無料記事)

松村邦洋さんの言葉に「挨拶にスランプなし」というのがあります。とてもいい言葉で、自分だったら前にどんな言葉を置くだろうかをいつも考えています。感謝でもいいし、努力でもいい。綺麗事に聞こえるかもしれませんけど、理想なんだから綺麗な方がいいじゃないですか。 スランプとは、いつもはできていることがなぜかできなくなるという意味なので、本当は元々すごい能力がある人しか使えない言葉なのだと感じます。スランプ時の大谷翔平は、どのプロ野球選手よりも優れている状態でしょう。そう考えるとやる気

どうでもいい話:Anizine(無料記事)

数年に一度くらい、仕事が終わった午後に気絶するように寝てしまうことがある。今日がそれだった。22時に目が覚めたが、16時頃からの記憶がない。昨日、本の原稿を送ったところで気が抜けたんだろうと思う。非常にわかりやすい。 医学的な常識として睡眠不足はよくないこととされている。成人男性だと6時間くらいは寝ないと健康に問題が起きるという話をよく聞く。しかし俺の場合は、「これをせずに寝てしまったら不安になる」という気持ちの方が勝っていて、だらだらと仕事を続ける。昼は撮影や打ち合わせ、

書けることだけ、書けばいい。:Anizine(無料記事)

「昨日、コンラッドでランチをしていたら、私がコロンビア大学で美術史を勉強していた頃の友人と偶然会った。彼女はNYで年商20億ドルの会社を経営しているアメリカ人と結婚しているが、休暇でコンラッドに泊まっている。一泊50万円くらいするみたいだ。前回は何年くらい前だっただろうか、私がNYPのオフィスで働いている知人に誘われてリンカーン・センターで会った。監督はアラン・ギルバートだった気がする。彼女とパートナーはこれから日本人の有名なベストセラー作家と『鮨さいとう』に行くのだという」

サンクチュアリ:Anizine

Netflixの『サンクチュアリ』を観た。本当は「-聖域-」っていうのがおまけでついているんだけど、俺は説明的な副題をつけるスタイルが嫌いなので無視する。「Dream -夢-」「Ocean -海-」ってタイトルがあったらバカっぽいと思うんだけど、すでに存在していたらゴメン。 それはいいとして、ドラマの完成度は抜群に高い。批評家ぶって悪口や批判を書くためにソーシャルメディアを使っているのではないから、俺は褒めたいコンテンツにしか言及しないことにしている。題名だけで感想を何も書

倍数、大好き:Anizine(無料記事)

この本にも書きましたが、ルイス・ブロックの「欲求の倍数理論」というのが好きです。人々のどんな欲求にも倍数があり、感情はその倍率に支配されているのではないか、というものです。 たとえばある人が200万円のクルマを買ったとします。同じ時期に友人が800万円のクルマを買っていたとすると倍率は4倍。普通に考えたら、クルマなどは移動する目的や用途で選んでいますから、価格など重要ではないように思えます。しかしそれを理由に、「彼のクルマより私の方が4倍高い」とマウントをとってくる人は確実

ふざけるなよ:Anizine

「身も蓋もない」と言う言葉があるけど、あれ、面白いよね。 そう言ってしまったら表現が露骨過ぎてどうしようもない(から、やめよう)という意味だけど、構成するパーツが「身と蓋」だと考えた場合、存在がないという面白さが立ち上がってくる。 「クルマのことをそんな風に言ってしまったら、ボディもシャーシもない」とか、「1960年代をそうまとめてしまっては、サイモンもガーファンクルもない」などと状況に応じて使い分けるのがいいのではないか。ではないかってこともないんだけど。 昨日、カフ

35歳を過ぎたら:Anizine

人の能力は35歳くらいがピークなのではないかと思っています。勘なのでエビデンスはないんですけど。振り返ってみると35歳くらいの頃って、仕事の能力と経験が一通り身についていて、体力や気力も十分にあって、文句なしに最強だと感じます。 たとえば、小学校三年生くらいが「自分なりの思いつき」をしたとして、大発見だと思って中学生のお兄ちゃんに説明します。するとお兄ちゃんは「そんなの常識だし発見でも何でもないよ、バカか」と言うわけです。その中学生のお兄ちゃんも自分なりの発見を高校生のお姉

田舎者の定義:Anizine

立川談志師匠はつねづね、「田舎者とは、生まれ育ちではなく了見だ」と言っていた。了見という言葉はほとんど聞かれなくなったが、思案の質のことで、「そんな了見だと大人になって困るぞ」と、我々のような焼け跡闇市世代は年長者からよく言われたものだ。 了見が悪くなった、劣化した、のではなく、了見という基準がルールブックに存在しなくなったのだろう。それが花壇に平気でゴミを捨てる人を生み出し、これが田舎者と呼ばれる。「概念がなくなる」というパラダイムシフトを他でも感じたことがある。これは人