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倍数、大好き:Anizine(無料記事)

この本にも書きましたが、ルイス・ブロックの「欲求の倍数理論」というのが好きです。人々のどんな欲求にも倍数があり、感情はその倍率に支配されているのではないか、というものです。

たとえばある人が200万円のクルマを買ったとします。同じ時期に友人が800万円のクルマを買っていたとすると倍率は4倍。普通に考えたら、クルマなどは移動する目的や用途で選んでいますから、価格など重要ではないように思えます。しかしそれを理由に、「彼のクルマより私の方が4倍高い」とマウントをとってくる人は確実に存在します。これほど無意味なことはないのですが、そこに劣等感を持つ人も生んでしまうわけです。

ルイス・ブロックはここに注目し、多数のサンプルを観察しながら、「優越感が生まれるのは4倍」という結論に達したのです。日本で言えば、600円(一般的な平均値)と、2400円のランチを食べている人、この間には厳然とした差があるのは誰にでもわかると思います。2400円のランチを見た600円の人は「豪華なモノを食べているなあ」と羨ましがります。実際のところ、2400円であればそれなりのレストランのランチが食べられるはずです。そしてその断絶はかなり大きいのです。

しかし、ルイス・ブロックは同時に「かと言って、5倍は必要ないのだ」とも言っています。5倍だと3000円になりますが、2400円と3000円のメニューの間には目立った違いがありません。ですから自分もいつか豪華なランチを食べたいと思っている人は、昼食にかける金額が払えるように年収を単純に4倍にさえすればいいのだと言うのです。

多くの人はこれがわかっていません。ビジネスや投資で当てて、数千億円欲しいなどと夢を語ったりするのですが、その実現の具体性がないことから、途方に暮れてしまうのです。しかし4倍だと言われたらどうでしょう。もしかしたらいけるかもしれない。我々のようなフリーランサーであれば、仕事の単価を2倍にして仕事の数を2倍にできれば達成できる数字です。そんなに簡単ではないよ、という意見もわかりますが、5倍すらいらないと言うのですから、なんとかなりそうです。

あまり多くお金を稼いでいない人は、実は無駄にお金を使っています。そこに意識的になればもっと効率のいい、意味のある使い方はできます。スイカを育てているとして、実が3センチくらいになったときに食べてしまってはダメなのです。喩えが子供じみていてバカにしているようで申し訳ないのですが。

自分が普段していることをすべて小さなエレメントに分解して、そのパーツがいくつあれば、もっと面白いこと、スケールが大きいことに結びつくかを考えれば、3センチのスイカを食べてしまうことはないでしょう。そこで我慢をしていると思うと辛くなるので、面白いことの準備のためにしているのだと気持ちを切り替えるといいと思います。そうして600円のランチと2400円のランチを経験してみると、その金額の幅の『体験と経験』がストックされます。実は美味しいものを食べる、とかではなくてその知識のストックこそが重要なのです。600円のランチは誰でも食べるので情報に価値はありません。しかし2400円のランチには何があるのかを知らずに過ごしていると、情報が偏った上に薄くなり、さらには「別に高ければいいわけじゃねーし」と「酸っぱいブドウ方式」の嘘を自分につくようになります。

ラッシュアワーの山手線の混雑も知っているし、飛行機のファーストクラスも知っている方が、世界全体の意味の地図を精密に描ける気がします。ルイス・ブロックはそう言っているのだと思います。

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

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