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俺の恋人

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"俺の恋人" 全話まとめです。
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俺の恋人 最終話

湊さんは最近排泄が出来なくなっていた。

トイレの仕方が分からず、使い方を考えてるうちに漏らしてしまう。
そんなことが頻繁に起きていた。

俺や英、皆のことも忘れてる日がほとんどだった。

湊さんは俺のことを恋人ではなく、手伝いに来てくれてる人という認識になっていた。

認知症の診断を受けて、早くも4年が経った。
湊さんは33歳、俺は23歳になった。

相も変わらず大学は休学中だ。

今日もいつも

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俺の恋人 6

俺は大学に休学届けを提出した。

俺の全てをかけてでも、湊さんを支える覚悟ができた。

この間、英のことを忘れた日があった湊さん。
次の日には、明日香!と声をかけていた。

忘れられた本人はショックで涙を流していたが、今ではおちゃらけながら、シンの親友の明日香です!なんて冗談めいた自己紹介をするようになっていた。

俺もいつ忘れられるか分からない。

今この瞬間、1分1秒も離れたくない。一緒にいた

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俺の恋人 5

徘徊の症状が出始めてから、湊さんは思い立ったように何も言わず外にふらっと出ることが増えた。

時にはコインランドリー。

時には海。

時には商店街の人に会いに。

時間は関係なく、朝昼夜いつでも思い立ったら動く。

この間は俺がいる時だったからまだ良かった。

前は深夜3時に物音がしたので見に行くと、外に出ようとしている湊さんがいた。

聞くと、コインランドリーの鍵を閉めたか不安になったとか。

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俺の恋人 4

湊さんは最近、薬を飲み忘れる。

正確に言えば飲み方が分からなくなっている。

錠剤の開け方、薬は噛まずに水で飲み込むもの。

当たり前に知ってることが分からなくなっていた。

”失行”

当たり前に出来てたことが1人でできなくなる症状。
手や足は動くのに、どうするのか、どうすればいいのか分からない。

湊さんの認知症の症状は、中期に入っていた。

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俺の恋人 3

コインランドリーは今、湊さんのおじいさんがまた立っている。

あんなにコインランドリーの仕事が好きで、常連さんと話すのが好きだった湊さんは、帳簿の付け方や掃除の仕方が分からなくなっていた。

常連さんの名前も出てこなくなっていた。

湊さん自身がその出来事を受け入れられず、少し鬱の症状が出てきてしまった。

俺がこんな病気になったせいで皆に迷惑かけている。

俺のせいでシンが勉強に集中できない。

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俺の恋人 2

湊さんが認知症になって、ガスコンロからIHに変えた。

火を消さずにトイレに入り、そのまま料理していたことを忘れてしまうという出来事があった。

勉強をしていた俺は、夕飯を作っていたはずの湊さんがTVを見始めたことに疑問を抱き、キッチンを覗いた。

そこで放置されてる料理に気付いた。

「俺、何作ろうとしてたんだっけ?」

見る限り、豚肉の野菜炒めを作ろうとしていたんだろう。

「.……ごめんなシ

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俺の恋人 1

俺には自分の命より大切な人がいる。

湊晃。

かわいくて、表情豊かで、たまに大人っぽくて、大好きな大好きな俺の恋人。

そんな大事な俺の恋人は、いま病気と戦っている。

その病気とは、

”若年性アルツハイマー型認知症”