俺の恋人 5



徘徊の症状が出始めてから、湊さんは思い立ったように何も言わず外にふらっと出ることが増えた。





時にはコインランドリー。

時には海。

時には商店街の人に会いに。





時間は関係なく、朝昼夜いつでも思い立ったら動く。








この間は俺がいる時だったからまだ良かった。



前は深夜3時に物音がしたので見に行くと、外に出ようとしている湊さんがいた。

聞くと、コインランドリーの鍵を閉めたか不安になったとか。



大丈夫。俺が閉めておきました。



そう言うと安心したのか、再び自室で入眠していた。















大学に行ってる間、英から連絡が来ることが増えた。













湊さんが、もうすぐ正月だから餅買わないとって言って買ってたよ。料理に使ってあげて。

海でシンと待ち合わせする約束してるからって言って海に行ったよ。大学終わったら海来て。

花見の準備したいからって団子買ってたよ。夜一緒に食べてね。






毎日のように連絡が来る。





今日はこんな風に過ごした。
こんなことを言っていた。
今日の季節はこうだ。









英もまた、湊さんの認知症が分かった時、症状を受け入れるのに時間がかかった。

今では英も、湊さんの生きる世界で一緒に過ごしてくれている。

















俺は大学を休学するか迷っていた。

認知症の余命は凡そ10年程だと聞いている。
最近は延びているらしいが……。


できる限りの時間、湊さんと一緒に過ごしたい。

でも大学に行ってほしいと湊さんが願ってることも知っている。
















俺にはまだ悩む時間が必要だった。






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