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ショパンコンクールとポーランドの想い出。時を越えて蘇るもの。

✿花と音楽の意外な共通点

以前から私が感じていた、お花をいけるのが上手な方の意外な共通点。
それは・・・音楽のセンスがある方が多いこと。

私の実体験ですが、いけばなやフラワーアレンジを教えておられる方の中には、人並み以上に歌が上手だったり、趣味で何か楽器を演奏しておられたりと、音楽の才能もお持ちの方が多いのです。
同じ「美しさ」を追求するという点で、芸術的な感性や表現力など、音楽と花をいけることには共通するところが多いかもしれません。
音楽の演奏について説明する際に、「色彩を感じる音」「絵や映像が浮かぶような表現」等という言葉がよく用いられたりしますが、反対に、花の作品からもバイオリンやピアノの美しい旋律が聞こえてくるように感じることがよくあります。
1種の花でいけた花にはソナタやノクターンのソロような研ぎ澄まされた音色と旋律が、数種類の花をそろえていけるときは協奏曲のような周りの花との調和と響き合いが聞こえてくるような気がします。
他にも、花と花、音と音のあいだに生まれる「間」が表現の上で大きな役割を果たすところなど、様々な共通点が浮かんできます。


✿ショパンコンクールとワルシャワの想い出

今回、音楽の話題なったのは、先ごろ開催されていたショパンコンクールの配信をここ暫くの間ずっと聞いていたため。
日本人のピアニストも大勢参加され、お二人が2位と4位に入賞という快挙を成し遂げられました。
文字通り、全身全霊を一音一音にこめて美しい音楽を紡ぎ出すピアニストの姿を公式チャンネルの配信動画で何度もリピートして見られるなんて、なんて幸せな時代になったんだろうとしみじみ喜びを感じながら、ピアニストの方々の美しい世界に浸って至福の時間を過ごしていました。

優勝されたカナダのブルースさんは、その一音一音が宝石の粒のようで、ただただ聞き惚れてしまう美しさ。4位入賞された小林愛美さんの、胸の奥にひそんでいるものをぐっと掴まれるような切なく美しいドラマ。

そして、2位の反田恭平さんのファイナルでのピアノ協奏曲。第3楽章のクライマックスのフレーズを聞いたとき、目の前に、時間と空間を飛び越えて、ポーランドの風景、街、人々の面影が浮かび上がったような感覚を覚えました。それは、ピアニストが、そして作曲家が曲を通して映し出してくれた、ポーランドという国の魂のようなものだったのかもしれません。

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数年前に訪れたワルシャワの街。近代的な建物や社会主義時代の名残を思わせる建物が並ぶ街並みにさえどこか土の匂いを感じさせるような素朴さと、街を包み込む長閑な午後の陽だまりのような温かさ、そして様々な動乱をくぐってきた歴史の陰影を感じました。

中でも、一見すると中世の街並みがそのまま残っていると思うような旧市街が、実は戦火で全焼してしまっており、後からポーランド国民によって建物や道の一つ一つが細部まで忠実に再建されたのというお話は、慎み深く生真面目そうな印象のポーランドの人々の奥深くにある情熱と祖国への愛の強さを深く伝えるものでした。

そんなポーランド人の秘めた情熱とエネルギーの源は、やはりポーランドの豊かな大地と自然から生まれる死と再生の力に根差しているのではないかと思います。

旅の途中、ポーランドの国土を列車で縦断してプラハに移動したのですが、車窓から見える五月の田園地帯は地平線の奥の奥までなだらかな丘陵が続き、鮮やかな菜種の黄色と若葉の緑で埋め尽くされていました。
数か月前まで凍てついた枯れ葉色で覆われていた大地が息を吹き返し、あちらもこちらも一斉に新しい生命の歓喜に包まれる春。
そんな目の前の景色に、ワルシャワの街で感じた土の匂いと、失われた街や祖国を自らの手で取り戻した人々の情熱につながる一筋の流れを見た気がしました。

豊かな大地の上で、生まれては消えていく光と影のドラマ。その時のうねりを幾度も受け止め乗り越えてきたポーランドという国の、大地から脈々とわき上がるような「底力」を感じた旅でした。

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反田さんのインタビューを後から聞いて、彼がワルシャワに留学の地を移し、ショパン大学に通って一からショパンを学び、ショパンはもちろん、ポーランドやポーランド人についても深く理解を深めようとしたこと、また、コンクールでの曲の構成や演奏においても、ショパンとポーランドの人々の心に寄り添い敬意を表したいという姿勢を貫いていたことを知りました。
予選ラウンドでのソナタ「葬送」から「ラルゴ」「英雄ポロネーズ」へと続くプログラムには、何度でも何度でも復活するポーランドの魂と、祖国への望郷の念を抱き続けたショパンのストーリーが込められていたそうです。
まるで、ショパンが残した曲がピアニストたちによって演奏されるたびに、ショパンがその場に甦り、故郷への想いが昇華されていくような、やさしく美しい物語。そんな想いが多くの聴衆の心を揺さぶったのだと思います。

音楽に限らず様々な芸術や文化に触れることは、作家や表現者の心だけでなく、それらが生まれた国や地域、そこで育った人々の魂の集積のようなものに触れることでもあります。
日本の様々な文化においても、その美しさの源にあるものは、日本のこころであり、日本の自然、風土です。

近年、いけばなの神髄に触れる為、海外から日本へいけばなを学びに来られる方々がたくさんおられますが、日本での滞在を重ねて日本という国を知っていくにつれて、彼らの作品にやわらかで繊細な感覚が加わっていくのを感じることも多いです。
また逆に、日本人の感性からは生まれないような新鮮な表現や発想を見せていただくこともあります。
いけばな、そして日本の美を愛する心、そしてその可能性を広げていただけることは、日本人として本当にうれしいことです。

ショパンへの愛を共有したいという想いで、ポーランドの人々と観客とオーケストラ、そしてピアニストがつながった幸せな瞬間。
時を越えて、国境を越えて、心と心をつなぐ音楽の大きな力を改めて感じさせていただきました。

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