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【事業者向け】発達障害当事者が語る、会社も当事者も歩み寄るための考え方

【この記事は、約12分で読めます】

この記事にたどり着いた方は、発達障害の方を雇入れる、あるいは雇入れたいけど実現できない事情があるとためらっている方が多いかもしれません。

発達障害の方を、採用する。
正直に申し上げると、これは会社にとってある種並々ならぬ覚悟と配慮を必要とする「扱いにくい問題」と捉えていると、僕は考えます。

例えば、「暗黙の了解を理解するのが苦手」という特性。
これは周囲に気を遣わせてしまう要素の一つで、発達障害の方(以下、当事者)にとって人事考課の足かせにもなりかねません。
さらに、具体的な配慮が他部署から「特別扱い」と見られ、従業員に対する公正な処遇にも響いてきます。

また当事者を雇っている会社では、本人を見てるとどうも本や研修で言ってる内容と噛み合わない印象をお持ちかと考えます。
本当は、お互いWin-Winの関係を構築できるよう何とかしたい。
しかしこちらが配慮しても、本人が歩み寄ってくれない。
このようなお悩みを、お持ちではないでしょうか?

この記事では僕が発達障害と診断されてから約15年、500人以上の当事者や事業者(支援者)と出会った経験から、双方が問題を抱えている背景を解説します。
さらに、当事者も事業者も歩み寄る考え方も、実際に僕が障害者雇用として働いている事例を交えながら説明します。

正直僕は人事部門に勤めた経験がなく、採用担当にとって時には「それはピント外れだろ」といら立つ場面もあるかもしれません。
しかし決して他意はなく、純粋に会社と当事者間のミスマッチを起こしたくないという願いから、この記事を作成しました。
どうぞ最後まで辛抱して「当事者からの目線」で感じる悩みに思いを馳せていただければ、嬉しいです。


1.当事者側の問題

①「会社とは、鎧を着て戦場へ赴く場所」という過剰な自己防衛心

手順通りに進んでいるのに、殺伐とした環境に耐えられず悲しくなる。
反応が遅い特性上サボっていると思われたくないから、意固地に走る。
会社は、鎧を着て戦場へ赴く場所だ。

多くの当事者は、神経を尖らつつ心のゆとりがない中で働きがちです(かくいう僕も、否定体験が続くと身構えます)。
なぜなら、当事者は毎日コンディションが違ったり、報連相の仕方を本質的に理解していないからです。

定型・当事者問わず、朝が辛いのは誰しもあると思います(特に月曜日は)。
ところが、発達障害のある方は曜日を問わず、体調が毎日乱高下する場合があります。
朝は元気なものの、起きてみたら疲れきっているとか、起きた瞬間に「この世の破滅だ」みたいな日もあります。
そんな調子で毎日同じ時間に起きて、同じ職場に同じ時間に行って同じような人と挨拶するという一連の朝の流れは、きついものです。
出来たとしてもカラ元気な場合が多く、本心は「義務感」でこなしているケースがあります。
それが、いかに恵まれた職場であってもです。

当事者がきついと感じる背景は、例えば次のようなものがあります。

昨日までに起こった臨機応変な対応に、疲弊した。
信頼できる人から予想のつかぬ心ない一言を吐かれ、引きずっている(相手にとっては、心ない一言はただのアドバイスが多い)。
フラッシュバックが夢に出て、夢の出来事が現実問題にすり替わってしまっている。

定型にとったら、大失恋をしたとか突然身内に不幸があったとか、よほどすぐには立ち直れない出来事がない限りこんなケースでつまづくとは考えられないでしょう。
しかし、これが当事者にとっては日常茶飯事なのです。

報連相についても、いつ言えばいいのかというのがまず分かっていません。
たとえ同じ職場の方に対して、手順が一つ変わった場合であってもです。

報告しようと思って上司を見たら、なんかバタバタしている。
ちょっとまた後にしようと思っているうちに、忘れて「なんで言わないんだ」と怒られる。

相談とかする時も「何かあったら相談して」とよく言われるが、何があったら相談したらいいのかがいまいちピンと来ない。
相談したらしたで「それは自分で考えろ」とか言われたり、相談しなかったら「なんで言わなかったんだ」と怒られる。
どちらにしても怒られてしまい、八方塞がりになります。
結局、何も言えずじまいか言ったところで怒られる、そんな苦しみ方をして疲れ果ててしまうのです。

自分ではコントロールできない不安定なコンディションと、報連相の掛け違い。
この2つが「会社とは、鎧を着て戦場へ赴く場所」という過剰な自己防衛心を生んでしまうのです。


②常日頃抱える、「失敗したら責められる」プレッシャー

当事者の方は傾向として、常に失敗を恐れながら働いています。
理由は、過去に蓄積してしまった否定体験が引き金となってしまっているからです。

こう言うと定型は「過去にウジウジしたり執着してるんじゃねえ、甘えるな!」と当事者を責めるかもしれません。
しかし、簡単に「未来を見ろ」とか「前向きになれ」とかいう叱咤激励で解決できない闇が、当事者には存在するのです。

僕の例で言うと、幼少期から受け続けてきたイジメといびつな親子関係が否定体験の積み重ねとなっていました。
(いびつな親子関係については、前回の記事をご覧ください。)

悪気はないのに、思ったことを口に出す。
身体感覚のアンバランスが故に、体育などの集団行動で足を引っ張る。
家庭環境で満たせなかった承認欲求がこれ見よがしな態度となり、疎まれる。

当然「認められる」機会も十分に得られないまま大人になると、次のような問題も起こります。

何をしても「これで自分は大丈夫」と思えず、常に不安を抱えて生きている(大人になっても思春期のまま)。
細部にこだわるあまり「木を見て森を見ず」状態となり、全体を俯瞰できなくなる。
コミュニケーション経験不足により、相手と妥協したり価値観のすり合わせが難しい。
どこまで何を伝えれば相手が理解できるか分からないから、多弁になるか伝え漏れが起きる(つまり「中間」がない)。

定型でも上記の事例は仕事やプライベート問わず起こりえるのですが、これらが「いつも」生じているのが問題です。
当事者自身も相手を傷つけないように、怒られないようにと必死になっています。
しかし、コミュニケーションの方法や価値観のすり合わせが定型のように自然とこなしているものになっていないから、彼らは失敗してしまうのです。

ゆえに、傷つけてしまった・怒らせてしまったという事実のみ受け取り、否定体験を積み重ねてしまうのです。


③グレーゾーンが一つ存在するだけで、安定して働けない不安

発達障害の方は、会社の不文律や暗黙の了解というものを理解していない傾向にあります。
なぜなら、当事者にとって相手の感情や集団内の共通認識というのは視覚として目に見えないからです。

当事者の方は、形として現れないものに多大な不安を抱えます。
就業規則や業務マニュアルに書かれている内容には、素直に従えます。
しかし役員同士の利害関係であったり、役職に応じた機密情報の共有といったグレーなものには、判断に苦しみます。
理解しようとしても、自分で得てした経験のみに基づいて判断・行動するため、かえって意味をはき違えてしまいます。
結果、誤解や齟齬を生み、頑張っているのに「もったいない人」という烙印を押されるオチになるのです。

定型の方なら、価値観の共有やすり合わせは普段の会話で相手の感情を察して対応できるでしょう。
一方、当事者にはそれができません。
明文化されないと、動けないし理解できないのです。

定型にとったら「そんなもん学校や人から教わっていなくても、相手の立場に立ったら理解できるだろう」と首をかしげるでしょう。
しかし、当事者にとったら「学校や人から教わってもないのに、社会に出ていきなり理解しろと言われても困る」なのです。

つまり、曖昧なルール一つで当事者のコンディションが悪い方向へ一変する可能性があり得るのです。


2.事業者側の問題

①「将来の幹部候補」として採用できない難しさ

入社の時からハンデを抱えているが故、他の社員と「将来の幹部候補」として同じ土俵で競争できない点は、当事者の雇用を難しくさせています。

契約社員でもパートでもない限り、多くの会社は採用したい方を将来の幹部候補として選考を進めていきます。
なぜなら、会社は利益と生産性の向上を図るため、社員や取引先からの信用を得るために頼れる人材を育成する使命があるからです。

人事に勤めている方なら「何を今さら」とため息をつくかもしれませんが、幹部候補として求められるスキルは次のようなものでしょう。

・相手の悩みに応えるため優先順位を柔軟に動かし、マルチタスク・臨機応変な対応ができる。
・相手が発する言動の裏に隠された本音を引き出し、問題解決に尽力する。
・立場が人を変える意味を心得ており、場面や役職によってキャラを使い分けられる。

役職が上がれば、部下を管理する能力が求められます。
対人関係の調整は、役職問わずどこでも起こります。
周囲の要望に応じて、それまで着手していた仕事を中断せざるを得ない時があります。

さて、上記の内容をとても当事者がこなせると会社は考えるでしょうか?
部分的にはこなせたとしても、「いつも」こなせますでしょうか?

当たり前の話ですが、人から指図されなくても自分の判断で相手の意図している真意を読み、要求された内容に結果を残せる人間が会社には必要です。
当事者には厳しい言い方ですが、それが出来ない人は生き残れません。
そのため、「臨機応変な対応ができない、自分ルールに固執する人間に与えられるようなポジションがあるか?」が採用のネックになります。
もっと言えば、もし採用したとしても初めから昇格・昇進で遅れを取る人間に人件費を払う価値があるかとも判断しているでしょう。

スタートから同じ土俵に立てない。
遅れをとってしまうから、周囲から奇異な目を見られ職場の生産性にヒビが生じる。
会社も採用に前向きなものの、当事者のどう頑張ってもできない能力にどこにポジションを置くべきか、苦心しているのです。


②会社の不文律を、一つずつ具体的に教えないと理解してくれない配慮への負担

「③グレーゾーンが一つ存在するだけで、安定して働けない不安」でも説明しましたが、発達障害の方は会社の不文律や暗黙の了解というものを理解していない傾向にあります。
これは会社にしたら、大きな痛手です。

なぜなら、わざわざ言語化する必要のないものを説明するのは人にとってしんどいものだからです。
例えて言うなら、自分以外の誰かがミスをして他部署の担当者に謝らざるを得ない時「部署を代表して〇〇さんに謝っておきなさいよ」と忠告するようなものです。
忠告する立場からしたら、「暗黙の了解として当然の対応なのに、どうしてこんなこと言わなきゃいけないんだろう」と辛い思いをするのは目に見えて当然でしょう。
しかし、こんな基本ですら会社は当事者に言わなければいけないのです。
当事者にとったら、他人のミスは自分のミスではないため謝る必要がないと、蓋を閉じてしまってます。

世の中のマナーは、すべて納得できるものばかりとは限りません。
時には「周りがそうしているから自分もそうする」、嫌々ながらも周囲に合わせる場面もあります。
働いている方なら、誰しも経験しているはずです。
ところが、発達障害の方は一つひとつの背景事情や周囲の受け止め方を考え、自分なりに納得しないと会社の不文律が理解できません。

僕は会社で、直接上司から文字や口頭で会社の不文律を教わっています。
そうでないと、後々に誤解を生み取り返しのつかない出来事が起こりかねないからです。
これは時として、周囲には面倒を強いてしまいます。
ですが、職場の円滑なコミュニケーション向上には必要な配慮なのです。

結論、暗黙の了解を言語化してまで職場にしんどい思いをさせるほど当事者を採用する価値があるか?を会社は気にしているのです。


3.当事者と会社が歩み寄るためにできる対策

①1on1を週1回、1時間設ける

会社にとっても当事者にとっても、1対1で語り合う時間を作るのは組織の活性化に重要な要素です。
なぜなら、当事者にとって1on1は普段言語化できない悩みを吐露できる貴重なチャンスだからです。

僕の会社では週に1回、1時間必ず直属の上司と1on1を設けています。
内容は1週間の進捗から始まり、新たに出てきた仕事の相談、人間関係などです。
真面目な話がベースなのはもちろんですが、お互いここでは「人間らしさ」を出そうとプライベートな出来事も笑いを交えて話しています。

僕は、この1on1の時間が仕事を見つめ直す絶好の機会だと考えています。
なぜなら、第三者の意見を聞くことで誤った方向性を軌道修正できるからです。
相手も一人に集中できるので、周囲の様々な意見に惑わされるリスクもありません。
経験に裏打ちされた上司からのアドバイスを取り入れれば新たな視点や方法も知り、可能性が広がります。
結果、見通しが定まり、ゴールが成果となり自信につながります。
人によっては「週1は多すぎじゃないか?」と考えるかもしれませんが、上司も僕もお互いの価値観を擦り合わすには大切な時間だと、思いが一致しています。

つまり、1on1が当事者にとっても、会社にとっても互いを理解するために必要なのです。


②結果がどうであれ、お互い取り組んだ過程を認める

誰しも、一生懸命取り組んだものを否定されると嫌な気分になるでしょう。
朝早く起きて部屋の片づけをしたのに、いざ親が起きたら「朝早くに起きてまで片付けするなんて、日ごろから掃除をしないあんたが悪いからでしょ!」と言われたら、きっとげんなりするでしょう。
※実際過去、母親からやられました。

特に発達障害の方は、こうした否定体験に敏感です。
理由は「①「会社とは、鎧を着て戦場へ赴く場所」という過剰な自己防衛心」にでも述べたように、過去の失敗体験から「怒られたくないから」「ヘマしたくないから」と自己防衛に走るからです。

そのため会社は、たとえ失敗した・ミスしたとしても「何やってんだ!」と否定するのではなく、まずは「ご苦労様」とか「よく頑張った」と当事者をねぎらうのが重要です。
対して、当事者は相手から何か配慮されたら「助かりました」「感謝いたします」と答えましょう。
「相手は日ごろから、他の相手以上に自分に気を遣っている」という事実を肝に銘じてください。
一方それを「気を遣わせているのは特性のせいなんだ、だからダメなんだ」と悪い風に責めるのではなく、自分の能力を伸ばすために相手が考えているが故の行動と解釈してください。

具体的に僕は1on1の時間、事あるごとに例えば上司にこう言っています。
「いつも僕のために色々と考えて下さって厚く感謝御礼申し上げます。他の方以上に、僕に対して動いているのは〇〇さんの普段の行動から感じ取っています。今後とも至らぬ点が多々ありご迷惑をおかけする場面もあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。」

上司は「気を遣うのは、誰しも当然のこと」とけん制しますが、それは定型が得意とする謙遜というものです。

お互いの苦労や頑張りをまずはねぎらい、認める姿勢が相手への思いやりなのです。


③当事者からはオープンクエスチョン、会社からはクローズドクエスチョン

オープンクエスチョンとは「どうだった?」「なんで?」といった、相手に判断や理由を委ねる答えが広い質問法です。
対してクローズドクエスチョンとは「うん」「いや」等と答え方が決まっている質問や、提示された答えから選ぶ質問法です。

当事者は、オープンクエスチョンの質問をされると、自分の思った意見やその背景を説明しようとして「あの、えーっと…」と言葉に詰まりがちです。
理由は、当事者が曖昧な質問に対する答えを用意するのが苦手な特性を持っているからです。
また定型は、オープンクエスチョンほど柔軟なコミュニケーションはないと考えています。
なぜなら、オープンクエスチョンは、自分の考えを自由に伝えられる効果があるからです。

定型・当事者との違いで代表的な例は、お世辞が挙げられます。
定型は、知り合いがふるまった料理をおいしくないと思った場合でも「とてもおいしいです」と言うものです。
なぜなら定型発達文化の中で、お世辞は普通の会話と捉えているからです。

相手の気持ちを気遣ったり、相手の気分を良くしようとしたりしてお世辞を言う。
そのときには、事実を述べるよりも相手の気持ちを良い状態にするほうが重要だ。
定型はそのような価値観を学校や親・友達から教わったのではなく自分から獲得し、しかも「無意識」にこなしています。

ところが他の人の気持ちを読むのが苦手な当事者は、お世辞のように事実ではないものを言う理由が理解できない場合があります。
発達障害の人にはお世辞は嘘・無駄話・言う必要がないもの、と解釈する場合があります。
そのような特性なので、バカ正直に「イマイチだ」とか「もう一つ塩気があればなあ」とか個人的な感想を言いたがります。
結果、相手の機嫌を損ねてしまうのです(しかし当事者には決して、相手にイジワルしてやろうという邪気がありません)。

そのため、お互いが歩み寄るにはこのような会話が有効でしょう。
次の例は、実際会社と僕が過去職場で実践したものです。

【オープンクエスチョン(僕が上司に相談する場合)】
僕「〇〇さん、今回の手順書作成でちょっと困ってる部分があります。手順書を作る中で専門知識が必要な箇所があって、それをどこまで説明すれば良いのか判断できないのです。〇〇さんならどう進めていきますか?」

定型「初めから完璧に仕上げる必要はない。一回出して終わりじゃなくて、あれやこれや新しい意見を交わすことで坂巻さんもより良い手順書の完成に向けて修正できるんだし、とりあえず書くだけ書いてみたら?手順書は何も坂巻さんだけの仕事じゃなくて、全員で作り上げるものと自分は思ってるから。」

1日後…
僕「おはようございます。アドバイスありがとうございます。そうですね、自分の考えに固執していたと思います。全員で作り上げると仰っていただき、気が楽になりました。」

【クローズドクエスチョン(上司が僕に相談する場合)】
定型「これ、坂巻さんが一日のスケジュールを管理しやすいように表を作ってみた。もし納得できなかったらまた言ってくれていいけど、〇日までにこれで1年通してやるかやらないか、決めてくれる?」

僕「はい、記入してみて何か疑問点があったら相談させてください。」

1週間後…
僕「ご提案ありがとうございます。1週間の予定が具体的に視覚化できて、とてもやりやすいです。これで1年通してやってみます。」

いずれも、
Win-Winの関係が構築できていますよね?
また2つの事例で肝となるポイントは、次の2つが挙げられます。

・すぐに結論を急がない
・相手に考える余地を与える

当事者からはオープンクエスチョン、会社からはクローズドクエスチョン。
繰り返しになりますが、お互いがこのような視点で質問し、かつ答えを急かさず相手に考える余地を与える結果コミュニケーションが向上していくのです。


④良い意味で「期待以上を求めない」

これまで述べてきたように、発達障害の方はコミュニケーションスキルに定型とは大きな隔たりを生じさせています。
結果、当事者はスタートラインから昇進や昇格が頭打ちであり、会社も当事者は生産性や利益の向上に限界がある事実も分かりました。
ただ、このままではお互いがネガティブな印象を与えたまま雇用関係が続いてしまいます。

そのため、敢えて僕は当事者も会社も「期待以上を求めない」と主張します。
なぜなら限界値を設定すれば、障害特性から来るコミュニケーションの困難を回避できるからです。
結果、当事者も会社もトラブルに巻き込まれず、円満な関係が継続できます。

過去こちらの記事でも紹介しましたが、僕は既に会社から「配慮はするけど、坂巻の能力では今以上の昇進・昇格は望めない」と断言されています。

しかし、それは決してマイナスな評価ではなく会社なりの配慮であり、僕が定年まで安定就労を続けるために必要なマインドセットなのです。

他の方と比べたら、業務量は限られています。
交渉・折衝業務は他の社員に任せています。
仕事はデータ入力・社内のゴミ出しなど初めからゴールが決まっている定例業務ばかりです。

それでも、僕は安定就労を続けていて幸せです。
本当に恵まれた職場に出会えたと、感謝しています。

会社も僕を採用した結果、障害者への見方が変わったと言います。
実際採用が始まる前は、どうしても「障害」という言葉がマイナスイメージとして一人歩きし、どんな人が来るのかドキドキしていたそうです。
そんな緊張の中でも、会社は「障害を強みに、社員と協力できるか?」をベースに選考を進めたと言います。
結果として成功であれば、僕もこの会社に巡り会えて良かったと思います。

始めから期待以上を求めない。
それが当事者にとっても、事業者にとっても予防線を張るのに大切な考え方なのです。


おわりに

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
以上で、それぞれの立場でそれぞれが抱える悩みについてお分かりになったかと思います。

事業者側は、当事者が必要以上の不安感を持って働いている。
当事者側は、会社が発達障害を理解したくてもできない現実がある。
そしてお互いミスマッチを減らすには、お互いがコンタクトの機会を増やしたり、質問の中身を変える姿勢によってプラスの関係が続く。

様々な背景や理由を説明しましたが、結局のところ事業者も当事者も僕は「長期安定就労の実現」が最終ゴールだと考えます。
安定就労が続ければ当事者は社会に関わる自信につながりますし、会社はイメージアップにも貢献できます。

最後に、僕からメッセージを送ります。


事業者の方々へ。

当事者には「並」のレベルで合格点だと、伝えてください。
僕を含め当事者はそもそも、「中庸」を維持するのに困難を伴っています。
身体的な障害でないので、どうしても普通の人間として見てしまうのは仕方ないと思いますし、僕も割り切っています。
かといって、当たり前ができないものに対して一気に落第点を与えるのは、自信を失ってしまい本人の離職も招きかねません。
「長い目で・我慢して見守ってください」という感情的なお願いが事業者自身も辛いのは、僕も理解できます。
それでも、当事者の可能性を1でも広げるために10年20年のスパンで彼らを静観してください。


そして当事者の方々へ。

必要以上の仕事は手を付けず、ほどほどの段階で留めてください。
もし金銭的な問題があれば、副業で補うなど週末も稼いでください(もちろん、会社の許可は取ってくださいね)。
かといって普段の仕事は手は抜かず、ミスせず信用を勝ち取り、必要な人材になってください。
当事者の仕事は、地味な役回りが多いかもしれません。
しかし、年数が経つにつれ「噛めば噛むほど味の出るスルメイカ」「いぶし銀」のような存在になれば、脇役としてでも活躍できます。
是非、そうしたポジションを目指してください。

この記事を参考に会社も当事者もお互いが助け合える関係性を継続できるきっかけになれば、一当事者・一社会人として冥利に尽きます。
どうか会社も当事者も、安定就労が実現できる職場となりますように。


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