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“ Stay hungry, Stay foolish ” (ハングリーであれ、愚かであれ)ー生きることの意味を学び直す

上記の言葉は、アップルの創業者 スティーブ・ジョブズが、2005年のスタンフォード大学での卒業式のスピーチを締めくくった言葉である。(この時ジョブズは、すでに癌に犯されており、6年後に亡くなっている)

何故かこの言葉に心揺さぶられた。これから社会に飛び立っていく若者に対して、大企業を築き上げた経営者の口から発せられた餞(はなむけ)の言葉が、実利的なものではなく、ありきたりで教訓的なものでもなく、意表をつく言葉であったからだ。

でもこの言葉には、それを受け取った者を奮い立たせ、勇気づける力があると感じる。”Stay”は、文字通りその状態に居続けることである。”hungry”は、「満足しない自分であり続けろ、挑戦し続けろ」と理解した。

そして、”Stay foolish「愚かであり続けろ」この言葉の影には、彼の信奉していたある人物の存在があるーバックミンスター・フラー

「世界を変えた愚か者」と言われ、1960年代「宇宙船地球号」と言う言葉で、人類と地球の調和という概念をすでに先取りしていた人物である。
フラーの思想は明らかにジョブスに引き継がれている。

ジョブズは、フラーの思想から生まれた「Whole Earth Catalogue」という本を10代の頃から愛読しており、「それは自分達世代のバイブルであり、素晴らしいツールと気づきにあふれていた」と賞賛しているからだ。そのフラーの残したユニークな言葉から彼の思想が汲み取れる。

「私が考えたことの方が真実で、社会が考えたことの方が真実じゃなかったことが、何度も何度もあったんだ。人生を振り返ろう」

「若き日に挫折し捨て去った願いや好奇心を呼び覚まそう。あらゆる人にしてほしいのは、澄んだ心で考えることなのだ」

「何事も挑戦と失敗の繰り返しがあってこそ身につくものだ。人間は過ちからしか学ぶことができない

そしてジョブズも同様に、

「自分のやりたいことを貫け」、「Think different」
「世界を変えられると考えたものだけが世界を変えられる」

などと語っている。そして、標題の言葉で締めくくる前に学生に向かって、以下のように語っている。

「あなたたちの時間は限られている。誰かの言いなりになってはならない。誰かの教えにとらわれるな。それは他人に従って生きることだ。あなた自身の内なる声を周囲の意見に埋もれさせるな。最も大事なのは、あなたの心と直感を信じる勇気を持つことだ」

彼らの主張は、今、日本で推進されている「リスキリング」とは正反対のバックボーンに支えられている。

リスキリングは、今をうまく生きるための実利的な知識の効率的な習得が目的である。それに対し、彼らの主張は実利などにとらわれない、もっと言えば、社会の役に立ちそうに見えない、ばかばかしく思えることでもそれが自分のやりたいことなら、失敗を恐れず果敢に立ち向かえと言うことだ。心の声に従え、と。


ここで、また文化人類学者の今福龍太氏の言葉が再び蘇る。

「役に立つ」知識=情報は、その社会に有用か否かの基準で判断され、実利的な目的のために使われ、体制に組み込まれ、その体制を支える力となるだけである。そのような「知識」では、人間の命や自然の摂理については学ぶことはできない。


「知」は、我々の社会を創造していく真の力であるが、その時の「知」とは「知識」(knowledge)ではなく、「知性」(intelligence)であるはずだ。


iPhone などのスマートフォンが、コミュニケーションの世界にパラダイムシフトを起こしたのは、まさにジョブズのこのような思想、知性だろう。

「世界を変えられると考えたものだけが世界を変えることができる」


日本の社会、教育制度、研究環境はどうだろう。目先の成果を追い求めるあまり、長いスパンで物事を考えることを許さない不寛容な体制や環境、独自の生き方、異質なものを好まない精神風土ではないだろうか。

恐らく、フラーやジョブズのような人間を今の日本社会は容易に受け入れないだろう。他人と同じことをしない人間、誰の言いなりにもならない人間、自分の信じたことだけをストイックにやり抜く人間は、日本社会では最も嫌われる存在だからだ。

でも彼らの視点で「学ぶことの意味」をもう一度学び直してみたらどうだろうか。停滞気味の今の日本の未来を考える上で、何かヒントにはならないだろうか。

日本社会がリスキリングを標榜し官民一体で同じ方向に向かっている時、彼らは「他人に従うな、同じことをするな。自分で考え、自分を信じてやり抜け」と言っている。

そのことの意味を立ち止まって考えてみてはどうだろうか。日本は今までのやり方、考え方を今後もやり続けて行くのか、検討してみてはどうだろうか。

ジョブズが残したアップルの新社屋の図面を基に、7年後に完成したその建物は再生可能エネルギーで全てを賄えるものだそうだ。彼はそれを「宇宙船」と呼んでいたそうだ。ジョブズはすでに先を読んでいたことが、こんなことからもうかがえる。

最後に、冒頭の「Stay Hungry, Stay Foolish」の言葉は、ジョブズの愛読した「Whole Earth Catalogue 」の最終刊の最後のページに残されていた言葉であると彼は付け加えている。

Stay Hungry, Stay foolish ❣️

#私の学び直し


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