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「持たない」暮らしに憧れて

 近頃、小さな荷物で出かけることが習慣になっている。
 秋に新調したあたしの小さなショルダーバッグは深い緑色で、留め金だけが金色に光っている。飾らないデザインが気に入っている。

 このバッグの中には、お財布とポーチ、ハンカチ、それにミント味のタブレットがある。ポーチには薬と口紅に、今の季節ならハンドクリームが入っている。
 口紅は今年のクリスマスにパートナーが贈ってくれたものだ。鮮烈というよりも柔らかな印象を与える赤色の口紅で、なんだかとてもあたしらしい、と思う。
 バッグの中身は全て、あたしにとってきわめて重要なものばかりだ。

 日々気を付けていないと、モノはすぐに溢れかえる。あたしは買い物が好きだから、油断をするとすぐに机まわりや本棚は、こまごましたもので埋め尽くされる。
 いつ買ったかあまり覚えていないネイルポリッシュやヴィンテージアクセサリー、読もう読もうと思いつつもそのままになっているZINEがうず高く積 みあがっていく。
 それらをいちいち持ち歩いていたら、とてもじゃないが、小さなバッグにまとまらない。

 衝動買いが多いことと、あたしに発達障害があることは若干関係があるのかもしれない、と最近になって気づいた。そこで買い物をするときには、「一つだけ買う」というごくシンプルかつ厳格なルールを作って実行すると、モノは確実に減った。
 必要なものが小さなバッグ一つに収まるようになったころ、心にも余裕が生まれたように思う。

 モノを持たないことは、自分を見つめることだったのかもしれない。つまり、自分にとって何が必要で、何が必要でないかを熟知するということ。それは単にモノだけでなく、人生すべてにおいてあてはまる。

 あたしにとって、必要なものは多くない。
 きっとどこにいたって文章は書けるし、あたしの文章を読んでくれる優しい人たちにも出会える。それに、たいていどこでもカフェに入れば温かいミルクティーにありつけるのだ。あたしには、それで十分だ。

 あたしは今日も肩ひじ張らないジーンズとローヒールを身に着ける。口紅をしっかり塗れば自然と背筋も伸びる。
 あとは小さなカバンを肩から下げて、パートナーの手をしっかり握ったら、あたしたちはどこまででも行けるだろう。
 それはとても自由で、とても幸せなことなのだ。

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