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熟成読書感想文:電話交感

こがらし輪音さん『電話交感』(角川文庫)
2024年1月某日読了

こがらし輪音さんの作品はデビュー作から大体読んでいますが、作品を重ねるにつれて物語のクオリティに磨きがかかっているような感じがします。個人的に今作は現時点での最高傑作じゃないかと思っています。

まず、今作は現代の日常に怒りを抱える主人公・紗菜が、亡き祖母(タヱ)との不思議な電話でのやりとりを通して、今を生きるために大切なことを学んでいく感動的なストーリーでした。

理不尽な世の中は令和になって始まったことではなく、昭和の時代、それよりも前の関東大震災の頃には既にあったことであり、当時の世の中の矛盾だとか、タヱが抱いていた疑問だとかが、読者もその時代を生きているかのように感じられました。

中でも災害を経験したタヱの母が話していた「震災そのものよりもデマに振り回される人々の方が怖かった」というエピソードは現代にも通ずるものがあり、戦慄しました。

周りの風潮に流されるのではなく、失敗を繰り返しながらも自分の選んだ道を進み続けたタヱの人生が私はとても好きで惹かれました。タヱが紗菜にとっての立派なおばあちゃんになれたのも様々な経験があってこそですが、それでもタヱの母の存在は偉大だったのではないかと思います。

また、戦争を描いていたシーンはあったけれどシンプルに平和の大切さを描くのではなく、かつての日本が犯した過ちを通して、今の私たちにはどのような考え方が必要なのかを問いかけてくれるこれまでに私が読んだことのない戦争と平和の物語でもありました。

近年の感染症の流行や職場でのハラスメントで散々な目に遭っていた紗菜でしたが、タヱからの電話をきっかけに自分の長所を再発見して認めることで、周りの人間関係も少しずつ変わり出していく後半の展開にも心打たれました。

こがらし輪音さんの作品を読むといつも思うのですが、主人公にとっての敵として描かれている人物だとしても、必ずと言っていいくらいその人の長所だとか心の変化が描かれているところは、読んでいる方も清々しく読めて本当に素敵だなと感じます。

世の中はもの凄い勢いで変わり、人々はいつの時代も何かに怒っているけど、それでも笑顔を忘れずに、希望を持って毎日を生きていきたい!と思わせてくれた圧倒的良作でした。

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