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本好きが感動する短編集を読みました。

村山早紀さんの『桜風堂夢ものがたり』を読みました。本屋のリアルとちょっとした奇跡を描いた『桜風堂ものがたり』シリーズの3作目で、今回は本編の既刊2冊とは異なる雰囲気の短編で構成された巻となっていました。

現実的な要素が濃い本編に比べると今作は故人と再会したり、宇宙人が出てきたりと、ファンタジー色強めなエピソードが多く、本来の村山さんらしさを感じられる内容でこれはこれで良きでした。

とはいえ、本屋や作家を取り巻く現実の話題や物語が持つ力については今作でも健在で、不思議な物語の数々から感じる物語へのリスペクトには感動したり、共感したりした箇所も多かったです。

中でも収録作の1話目『秋の怪談』で描かれていたベテラン小説家と少年の心の交流は、私の胸にもグッと刺さりました。

このエピソードは桜風堂の店主の孫である透が主人公となっていて、幽霊屋敷と呼ばれ恐れられている屋敷で彼が愛読している児童文学の作者に出会う…という内容でした。

透が好きな物語の作者・千野玲也は、表向きではミステリー作家としてヒット作を連発しているものの、本当は子どもたちが純粋に楽しめる物語への思いがとても強い人物でした。

透が愛読している「空色の騎士」も子どもたちが楽しく本を読んでくれるよう祈りを込めて書いた作品でしたが、時代が進むにつれて児童文学作家としての千野玲也は埋もれてしまいました。でも、透やシリーズの主人公・一整は千野玲也が書いた児童文学を今でも愛しており、いつか新作が読めることを祈っています。

私にも途中でジャンルが変わり、そっちの方がヒットして複雑な気持ちになった好きな作家さんが何人もいるので、千野玲也が物語に込めている思いに関しては非常に心を揺さぶられました。そして、世の中に埋もれてしまったとしても、その物語を宝物としている読者は必ずどこかにいることをこのエピソードを読み実感しました。

本が売れないと言われ、リアル書店も年々減っている世の中ですが、それでも本と物語を愛する人がいる限りは、本屋という文化は廃れないと私は信じています。このシリーズはそれを強く感じる物語です。

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