そのバーは、お酒への「憧れ」を叶えてくれる(ゆきた志旗:『ミッドナイト・モクテル』)
今回の本は、ゆきた志旗さんのライト文芸作品『ミッドナイト・モクテル』(集英社オレンジ文庫)です。
ノンアルコールのカクテル「モクテル」をテーマにした作品というのがユニークで興味があり、読んでみました。「お酒」というと大人なイメージがありますが、今作は幅広い世代の読者が楽しめる物語となっていました。いろんなお酒に興味がある人、バーに憧れがある人にぜひおすすめしたい1冊です。
あらすじ
感想
主人公のミチルはお酒が苦手。仕事でお酒に携わっていることもあり、「大人はお酒が飲めるのが当たり前なのか?」と余計疑問に感じていたところがありました。だけど、ノンアルコールを中心に提供するバー「SOBER CURIOUS」との出会いでミチルの常識は一気に覆されます。
今作にはノンアルだけど酔った気になれる「モクテル」がたくさん登場します。カクテル自体もお酒が苦手な人向けに考案された飲み物だけど、ノンアル版であるモクテルはその更に進化した飲み物。アルコールが入っているかどうかで名称が変わるとか、作中に登場するカクテル・モクテルが考案された背景とか、知れば知るほど面白かったです。
「SOBER CURIOUS」はお酒を飲んで酔って、現実を一瞬だけでも忘れる場所というよりは、店員やお客さんとの会話を通して日々の疲れを癒す「居場所」として描かれていたのが印象的でした。ノンアルを中心に提供しているのにもそういった背景が関係していました。誰にも話せないことを夜のバーで共有する…なんだかロマンティックですね。
今作を読んでいて意外だったのが、中学生の少女が主要人物となっていたエピソードがあったことです。「スピークイージーで内緒話」のエピソードでは、ミチルの友人の中学教師・悠里と、悠里の教え子である相沢さんの物語が展開しました。
悠里は優等生の相沢さんが頻繁に校則を破っていることに頭を抱えていましたが、「SOBER CURIOUS」にてミチルも交えて話し合ったところ、相沢さんの意外な事情が明らかになりました。彼女が校則を破っていた理由からは、中学生特有の友達付き合いの難しさを感じました。
中高生の頃って鬱陶しいと感じる友達付き合いも少なくはないですが、ミチルと悠里が言ってたように「社会人になると友達と頻繁に会える機会が減る」というのは本当にそうだよなと思いました。このあたりの話題は中高生の読者にも刺さりそうかと。
またこのエピソードの面白かったところが、相沢さんの大人への「憧れ」の物語でもあったところです。いくら秘密を共有する場とはいえ、バーは未成年者には相応しくない場所。ミチルたちとの会話でいろいろなモクテルに触れたり、大人の特権を知ったりしたことで、相沢さんの中には大人に対する憧れが生まれました。
カラフルで、女性ウケも良さそうなカクテル・モクテルの世界。もしこの本を中高生の頃に読んでいたら、きっと成人してお酒が飲める日が待ち遠しくなっていたと思います笑。「SOBER CURIOUS」はお酒への憧れを叶えてくれる場所でもあるのかもしれませんね。
今作はお酒・バーの楽しみ方へのイメージがガラッと変わる作品でした。カフェに行くような感覚で入れるバー、あったら行ってみたいですね。
ただ、公式サイトの作品紹介漫画の内容からちょっと恋愛要素もあるのかな?と思っていましたが、実際はお客さんひとりひとりの悩みのお話がメインだったので、ラブコメに期待している人は少し物足りなく感じるかも。
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