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第25回:この「最高のハッピーエンド」を味わってほしい

こんばんは、あみのです。今回の本は、星火燎原(せいかりょうげん)さんの青春小説『死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びにつれていく話。』(宝島社文庫)です。タイトル長いし、「遊びにつれていく」という表現がとにかく凄く気になって読んでみました。

あらすじだけだとよくありそうな青春小説に見えますが、読めば読むほど不思議とポジティブな気持ちになれてしまう意外性のある物語です。ありきたりな青春小説は苦手という方には特に試して頂きたいです!

あらすじ(カバーからの引用)

相葉純は死神に寿命を渡し、時間を巻き戻せる時計を手に入れた。理想の生活を手に入れた相葉は、ある日の夜に少女が自殺したというニュースを見た。なぜだか胸がざわついた相葉は、時間を巻き戻して少女・一之瀬月美の自殺を邪魔することにする。時間を巻き戻し、一之瀬の自殺を邪魔し続けるうち、二人の関係は徐々に変化していき……。生きづらい日々を少しずつ変化させる、小さな恋の物語。

感想

正直なところ、最近のこの手の作品って既存作の焼きまわしみたいな内容が多くて、個人的にはマンネリしていたジャンルでした。しかし、今作は物語が進むにつれて本当に「予想外の展開」が待ち受けていて、「最高のハッピーエンド」としか言いようがない結末に驚愕しました。

今作のヒロインの月美は、家庭や学校での人間関係で苦しむ日々を過ごしており、絶望的な人生から抜け出そうと自殺を決意します。

一方で主人公の相葉は、他人と比べるとつまらない人生に飽き飽きしていたところ、「死神」と名乗る人物と出会い、自らの寿命を犠牲にした代わりに「ウロボロスの銀時計」という時を戻せる不思議な時計を手に入れます。

死神は相葉に「ウロボロスの銀時計」を渡した際、「絶対に寿命を手放したことを後悔しないでください」と告げます。時計を受け取った時、相葉はこの忠告の意味をよく考えていませんでしたが、私は「死神の忠告の通り、彼は月美を救うことを通して寿命を手放したことを絶対後悔するんだろうな」と今後の展開を予感していました。

時計の力を駆使しながら月美の自殺を食い止めていく相葉ですが、彼女とのコンタクトを繰り返し仲良くなっていくにつれて、案の定彼の中に寿命を手放してしまったことへの後悔の気持ちが生まれていきました。

せっかく月美と付き合えたのに、死神との約束によって彼女との仲が引き裂かれてしまう。この危機をどう相葉は受け入れるのだろうか?と物語のクライマックスでは緊張感が漂っていました。

相葉の命が尽きようとしていた中、月美はウロボロスの時計の思わぬ使い方を発見してしまいます。どんな使い方をしたのかはぜひ読んで確認して頂きたいのですが、この発見によって死神を敗北させてしまった2人の愛の強さには私も称賛します。やっぱり好きな人と少しでも長くの時間を過ごしたいっていう気持ちは強いですね!

今作自体は「生きることの大切さ」を描いた物語でした。相葉に連れられて水族館やゲームセンター、プールなどに遊びに行きながら生きる楽しさを見つけていく月美の変化も印象に残りました。嫌々行きつつも、最終的には笑顔になってしまう月美の幸せいっぱいな姿に心が温かくなります。

中でも七夕祭りのシーンは月美の価値観を変えた大きなターニングポイントにもなっていたと思います。短冊に何気なく書いた「高校受験、受かりますように」という月美の願いからは、自殺以外の手段で今の生活から脱却したいことへの思いも少なからず込められていたんじゃないかなと私は思いました。

登場人物が生きる理由を見つける物語は数多くありますが、現実から逃げることによってヒロインに生きる楽しさを教える、そして恋人同士になることで、ひとつの「後悔」に打ち勝ってしまう展開はとても面白い表現だと思いました。優しくて甘々な今作の結末は何度も楽しみたくなりますね!

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