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第99回:優しさと美味しい料理は心を救う

こんにちは、あみのです。
今回の本は、髙森美由紀さんのライト文芸作品『柊先生の小さなキッチン』(集英社オレンジ文庫)の第1巻です。前回は「芸術の秋」っぽい作品だったので、今回は「食欲の秋」っぽい作品を。

今作は様々な「生きづらさ」を抱える人々が、美味しい料理を通して救われていく物語です。シンプルなストーリーではありますが、読むと心がとても温かな気持ちになれます!柊先生の優しさにあなたも癒されてみませんか?

あらすじ(カバーより)

「おまちどうさま、あなたのご飯できました」
失恋の痛手から、ひどい食欲不振に陥った一葉。小さな我が家アパート万福荘まんぷくそうのお隣さんとして、柊先生が越してくるまでは‥‥‥。偶然の出会いと、心もお腹も癒す先生のごはんに、少しずつ自分を取り戻していく一葉。一方、万福荘には次々に個性的な住人が引っ越してきて?嘘偽りなきポトフ・リンゴ角煮・湯気上げるプリン。やさしいメニューが絆を繋ぐ、満腹万福ストーリー。

感想

まず、以前読んだ髙森さんのオレンジ文庫での前作『花木荘の人びと』の焼きおにぎりの美味しそうな表現が凄く印象に残っていました。

今作は「食」をテーマにした物語とのことだったので、前作以上に魅力的な料理と出会うことができそう!とあらすじだけでもかなり期待が高まる1冊でした。

また私は、髙森さんが描く現実にありそうな風景を切り取った物語が大好きです。
一葉や柊先生をはじめとする今作の登場人物たちもきっと現実世界に存在して、困難や幸せと共に今も生活を送っている様子を頭の中に思い浮かべることができました。

***

今作は主人公・一葉が暮らすアパート「万福荘」に、高校で家庭科を教えている柊という男性が引っ越してくるところから物語が動き出します。

一葉は恋人の裏切りによる失恋によって食欲も失ってしまいましたが、柊先生との食に関する会話やポトフ作りを通して、次第に気持ちを回復していきます。

序盤で印象的に描かれていた柊先生とのポトフ作りのシーンでは、2人のこのようなやりとりがありました。

「——ジャガイモもえぐられたら、痛いでしょうね」
「痛いでしょうが、その痛みは次の工程に進むために必要な痛みですから」

ジャガイモの芽をとる作業と一葉の失恋の傷を重ね合わせたこの会話。
包丁で芽を取り除かれたジャガイモを見て痛々しさを感じた一葉に柊先生は、辛い傷や痛みも自分を変えるためには必要だと答えます。

確かにジャガイモの芽を取り除かなければ食べる人の体調にも影響してしまいますし、何よりも一葉の感情を調理されているジャガイモに例えたこの表現は秀逸だなと思いました。
今の一葉を苦しめている失恋の傷も、彼女が新しい恋をしたときには(もう始まっているかもだけど)正しい人付き合いを判断するためのヒントへと変わってそうですね。

ポトフ作りを機に一葉は失恋の傷を回復したと同時に、柊先生の優しさと食に向き合う姿勢に惹かれていきます。
今作ではまだ恋愛要素は弱い印象でしたが、2作目以降一葉と柊先生の関係は進展するのでしょうか。このあたりも今後気になりますね♡

***

万福荘には柊先生の他にも次々と個性的な住人がやってきます。
個人的には久太郎(一葉が飼っている犬)の元飼い主?な石原さんのエピソードが印象に残りました。

1話目で久太郎の可愛さに癒される一葉の姿に惹かれたので、彼女の癒しを奪おうとする石原さんにははじめはあまりいい印象がありませんでした。
でも物語が進むと彼も一葉と同じく失恋に悩んでいたことや、この経験が仕事にも影響してしまっていることが判明しました。

石原さんの作品を待っている人はこの世にたくさんいると思います。一葉と柊先生に出会い、食を通して仕事への意欲を取り戻すことができた彼は、きっとこれまで以上に素敵な作品を生み出せそうですね。

また今作にはSNSをテーマにしたエピソードもありました。私もnoteはひとつの居場所だと思っているので、SNSをやっていることで居心地の良さを感じているというある人物の考えには共感した箇所がありました。

しかしこの人物は不特定多数からの「いいね!」を貰おうと、柊先生の過去にまでも手を伸ばします。
居場所を獲得するとはいえ、全く関係のない人まで巻き込むところは、柊先生のファンのひとりである私として非常に許せなかったです。

この物語は、現実世界でも充分に居場所を作ることはできることを教えてくれました。柊先生を巡る一連の事件を経て、ひとりの人物は万福荘の人々との関わりも自分の居場所になることを知ります。

SNSで顔も知らない人と繋がるのも現代ならではの楽しさだと思いますが、それでも顔を知っている相手とも頻繁に関わること・気軽に話せることはいつの時代も必要になってくるんじゃないのかなと感じました。
私も身近に何人か気軽に話せる人がいるので、彼らとの関係はこれからも大切にしていきたいなと思いました。

美味しそうな料理だけでなく、魅力的なキャラクターも同時に楽しめる1冊。私は優しいけど時々Sっ気を見せる柊先生と今作のマスコットキャラクター的な久太郎が推しですね。柊先生が石原さんをイジるところには笑います。

続編も先日発売されたので、近いうちに読めたらいいなと思います!さて次はどのような人を食と優しさで救っていくのでしょうか?楽しみです。

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