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第16回:小説家の熱すぎる愛にまさか涙するとは思っていなかったラブコメ

こんばんは!あみのです。今回の本は、葉月文さんのライトノベル作品『ホヅミ先生と茉莉くんと。』(電撃文庫)です。これが予想以上の感動作でした。

これまで葉月さんというと、ライトノベルというよりはメディアワークス文庫などのライト文芸の作風に近い作家さんというイメージがありました。今回は「ラブコメ」という流行りのジャンルですが、一方で小説家が作品に込めている思いやひとつの物語が読者の人生を変える可能性も感じることができる、「物語」が好きな人ならきっと誰もが心震えるメッセージが沢山詰まった作品です。

あらすじ(カバーからの引用)

 デビューからはや六年。未だに重版未経験の売れない作家、ホヅミこと空束朔はスランプに陥っていた。渾身の原稿は全ボツになり、売れ線のラブコメを書いてみないかと担当編集に勧められる始末。
 そんな悩めるホヅミの前に、ある日、白花茉莉と名乗る謎の女子高生が現れる。彼女の協力のもと、夢のミリオン作家を目指しホヅミは再び執筆に励むが……!?
「ホ、ホヅミ先生! これは本当に執筆に必要なことなんでしょうか!?」
 コスプレさせたり、デートしたり、買い物をしたり。積み重ねていく何気ない日々が、二人の距離を近づけていく―――。
 拗らせ作家×世話焼きJKの甘々癒し系ラブコメ、堂々開幕!

感想

葉月さんの既刊で『あの日、神様に願ったことは』(以下「あのネ」)というシリーズがあります。私はこのシリーズの1作目を読んだ時、表現が独特かつ作品のメッセージがいまいち理解できなくて、2巻以降読むのをやめてしまったことを思い出しました。

なぜ思い出したかというと、作中にて「ラストが理解できない」と多くの読者から不評だったホヅミ先生の作品のメッセージが、茉莉ちゃんというひとりの読者にはしっかり届いていたというシーンがあったからです。作品をどう解釈するかは読者の自由ですが、それでも作者自身が込めた思いがひとりでも読者に伝わっていることは、小説家が作品を書いて良かったと思える瞬間のひとつのように感じました。

一方で私は申し訳ないことに、数年前「あのネ」に込められた葉月さんの思いを理解することができませんでした。だけど、今作を読んでみてあの作品にもきっと作者が伝えたかった大切なことが隠されていたはずだと思い、自宅にある「あのネ」1巻を読み直したくなりました。読んでからだいぶ時間が経っているので、今の自分はどう作品を読むのか楽しみです。

茉莉ちゃんは小学生の頃に偶然出会ったホヅミ先生の作品によって人生を変えた経験があり、彼の作品ひとつひとつを大切に読んでいる良き「読者」でした。もちろん彼女以外にもホヅミ先生を応援している読者は多くいて、ネット上で感想を書いてくれたりファンレターが届いたりと素敵な読者がいるホヅミ先生はとても幸せだと思いました。我が子のような作品たちが読者の心を掴むことって、小説家にとって最大のやりがいだと思います。

そしてホヅミ先生は面白い小説を書いて、多くの読者に感動や喜びを与えることを凄く大切にしています。茉莉ちゃんの「ホヅミ先生はなぜ小説を書くのか?」という質問に対して、変わった(迷惑な?)手段を使ってその答えを叫ぶ彼の熱い小説への思いに私は涙しました。作者の葉月さんもきっと、彼と同じ思いを込めて今作を書いていたと思います。

また、作中にはライトノベルのシビアな現実も多く描かれていました。作者が得意とするジャンルよりも流行りのジャンルを求められたり、続編の決定及び長期シリーズになるためには初動売上げが大きく関係していたりと商業作品はまず「売れる」ことが第一な世界でした。

ホヅミ先生は「売れる」とされるジャンルの中に「自分らしさ」を茉莉ちゃんとの生活もヒントにしながら見出していき、「人気作家」の一歩を踏み出しました。だけど、音中ウミ先生のような超人気作家に辿り着くにはまだまだです。ホヅミ先生は人気作家になるための更なる壁や自らの書く物語とどう向き合っていくのか、続編への期待が高まります。

「みんな笑顔のハッピーエンド」これは、ホヅミ先生の小説におけるモットーです。内容によってはバッドエンドが相応しい作品も時にはありますが、圧倒的に読み終えて気持ちが良いのはハッピーエンドの作品だと思います。なので、ホヅミ先生のこのモットーには私も非常に共感です。今作の幸せ溢れるラスト1ページで、再び目がうるんできました。きっとホヅミ先生や茉莉ちゃんの優しい人柄や、ホヅミ先生の言葉は単純だけど小説への愛は熱い叫びに強く惹かれたからこの物語で私は涙したのだと思います。

笑いも涙も大満足の1冊。茉莉ちゃんのように、何かの物語に一度でも勇気づけられた経験のある人に凄くおすすめしたい作品でした!

おまけ

今作も公式の朗読動画があります。興味を持った方はぜひ!動画のシーンは作中でも「ラブコメ」らしさがある部分で、個人的にも凄く好きだったシーンのひとつです。(私はこれを聴いて「読もう」と決意しました)




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