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ゆったり気分で読みたい物語たち(『短編旅館』*アンソロジー)

集英社文庫の『短編旅館』というアンソロジーを読了しました!


「旅館」をテーマに、旅館で働く人々の日常や、旅館にまつわる思い出を描いた、作者ごとの個性が光るアンソロジーでした。「旅館」という言葉、どこか懐かしい匂いがして良きですね。

同じ「旅館」というテーマでも、ファンタジーっぽい話や日常の謎系のミステリーなどと収録作のジャンルも様々なので、読めばきっとお気に入りの物語に出会えます。

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収録作の中でも私は、宇山佳祐さんの『父さんの春』が1番好きでした。
正社員を辞め、なぜかハンバーガー屋でバイトを始めた主人公の父。更にはバイト先で好きな人ができたと話す父だが、その相手はなんと主人公の恋人だった…という話。

宇山さんの作品というと「泣ける」タイプの恋愛ものが多いイメージがあったので、今回の短編のようなコメディ色強めな内容は少し意外でした。

親子の絆も試された沙織さんへの恋。主人公も父も残念な結果でこの恋は終わりましたが、沙織さんを好きだった時間は決して無駄ではなかったと思います。

これは、僕の父さんの小さな恋の物語なんかじゃない。
小さな小さな、成長の物語だ。

p230

終わった恋が、自分を変えるきっかけになるかもしれない。
失恋してもめげずに新たなことに挑戦して、自分を変えようとする父、そして沙織さんにしたことを反省し、父を見習って前へ進もうとする主人公に勇気をもらった作品でした。誰もが一度は経験する悲しみである失恋を描いた物語って、個人的には凄く好きです。

ちなみに宇山さんの作品、旅館があまり関係ないのでは?とこの感想だと思うかもですが、重要なシーンでしっかり登場するのでご安心を。

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他にも、このアンソロジーを読むきっかけとなった阿部暁子さんの『花明かりの宿』も良かったです。旅館で働く大変さとやりがいを感じる物語なだけでなく、ちょっとした謎解きも含まれていたのが阿部さんらしい作品だったかと。キャラクターも魅力的だったので、いろんなエピソードを追加した1冊の本で読みたい作品でしたね。

宿泊先でゆったりした時間を過ごすのも旅の魅力だと思います。読んでいて、小さい頃に家族旅行で旅館に泊まった時のわくわくした気持ちや客室の匂いを思い出してしまいました。

ひとり旅もいいですが、たまには家族旅行で家族とじっくり向き合うのもいいかもと感じる短編満載のアンソロジーでした!

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