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好きな作家さんの最高に心動かされる本を読みました

阿部暁子さんの『カラフル』という小説を読みました。

私は阿部暁子さんの本が高校生の頃から大好きです。魅力的で嫌いになれないキャラクターたちや丁寧な感情描写、作中でちらりと見せるユーモアも好きなところですが、中でも「いいな」と思うのが、自分と同年代の主人公が世の中の理不尽さに立ち向かう物語が多いところです。とても現実的で、読み終えると私も登場人物たちのように頑張ろう!と思わせてくれます。

今作は無気力気味な男子高校生が、車椅子ユーザーの少女と出会ったことで人生を変えていく青春小説でした。全体的に常に世の中と闘っている物語で、私の好きな著者の要素を特に感じられる内容となっていました。私の感想で少しでもこの小説の魅力が伝わればなと思います。


ストーリー

高校入学式の朝、荒谷伊澄は駅のホームでひったくり犯を捕まえた。
その際に、犯人の前に出て足止めをしようとしたのが、車椅子に乗った少女だった。
その後の事情聴取で判明したのだが、渡辺六花というその少女も、伊澄と同じ高校の新入生だった。
弁が立ち気の強い六花に、伊澄はヤな女だな、と感じたのだが……? 
夢を追い続けられなくなった少年と少女の挫折と再生の恋物語!

集英社ホームページより引用

感想

ここからは感想として、私が今作を読んで印象に残ったポイントをいくつかまとめていきます。

多様性について考えるきっかけになる物語

今作のヒロイン・立花りっかは、中学時代より車椅子での生活を送っています。

車椅子で不便に感じている点も少なからずありますが、その一方で車椅子ユーザーでないと見えない世界を知ったなど彼女にとってプラスになった変化もありました。立花の存在は、主人公の伊澄いずみをはじめとする周囲の人々にも大きな影響を与えていきます。

世間と立花の意思の食い違いや、次々とぶち当たる現実の壁には、登場人物だけでなく読者も一緒になって考えさせられる箇所が多かったです。中でも物語の佳境で描かれる「青嵐強歩」という学校行事の場面は特に悩ましい展開が満載でした。

今作のテーマはとても難しい課題ではあるし、正直なところ作中のある人物が述べたように「どうしたらいいかわからない」と感じてしまう点もありますが、読むと世の中に対する意識が変わる物語なのは確かでした。

立花の思いにひたすら心が震える

立花にはミュージカルスターになりたいという大きな夢があります。物語の序盤から彼女の強い性格がよく見られますが、その背景にはどうしても叶えたい夢があったことが徐々にわかっていきます。

しかし一方、車椅子ユーザーになったことで、その夢は閉ざされてしまったのではないか?と感じさせるくだりもいたるところで見られました。

それでも立花は幼い頃からの夢をまったく諦めていなくて、まずは誰にでも暮らしやすい世の中を目指すため、社会の現状に闘いを仕向ける彼女の熱意には思わず涙が出そうになりました。懸命に夢を語る立花に伊澄が惹かれたのも頷けます。

中でも「サウンド・オブ・ミュージック」のセリフと立花の思いを重ね合わせているシーンには私も心を撃ち抜かれました。立花の夢への窓がいつか見つかることを願います。

主人公の気持ちの変化も魅力的

伊澄は中学時代のトラブルを機に、好きだった陸上を諦めてしまいました。

序盤ではネガティブな思考の彼がよく見られましたが、立花との交流を深めていくうちに常に逆境に立ち向かう彼女に感化され、少しずつもう一度陸上と向き合いたい思いが芽生えていきます。

立花に影響され、大きく成長していく伊澄を見て、私も彼から前向きな気持ちをお裾分けしてもらったかのような気持ちになりました。この物語はきっと読んだ人すべてが伊澄と同じ気持ちに浸れると思います。

また今作は恋愛ものとしても見事でした。伊澄が立花への恋に落ちる瞬間、彼女の闘いに協力したいと誓う様子、そして終盤にて描かれる告白のシーンと、感情の切り取り方がとても丁寧なページが多く、どれもまるで映画のワンシーンのようでした。特に立花への告白のシーンには鳥肌が立ちました。


最後に、誰もが立花に感化され、世の中を見る目が少しずつ変わっていくこの物語に「カラフル」というタイトルは相応しいと実感しました。

熱い恋愛ものであり、世の中への気付きにも出会えるこの物語がたくさんの人に広まってほしいと私は願っています。

今回の本

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