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第184回:生と死の間で「自分らしい生き方」を考える。(楪一志:『レゾンデートルの祈り』)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、ゆずりは一志いっしさんの『レゾンデートルの祈り』という作品です。以前TikTokでバズった作品だそうで、いろんなところで見かけるたびに読んでみたい!と思っていました。生きていく中で自分にとって大切なものを考えながら読んでみてほしい1冊です。

ストーリー

こんなに苦しいのに、生きる意味ってなんだろう。
「あなたも、生きたくても生きられないのでしょうか」

2035年、神奈川県・江ノ島の<ラストリゾート>。
この場所で遠野眞白が出会う人は、誰もが「死にたい」と願っている。
安楽死が合法化された日本。
人命幇助者<アシスター>の眞白は、死に救いを求める人々と正面から向き合う。
暗闇の奥底に微かな「生きたい」があると信じ、希望の光を照らしたい。
もう二度と、あの日の後悔を繰り返さないために。

苦しくても、生きる理由を見つめ直す。
新鋭作家が紡ぎだす、切なくも温かい命の物語。

出版社サイトより

感想

前半のエピソードでは、恋人や妻と離れ離れになり、生きる理由を見失った人々と眞白ましろが交流する様子が描かれました。
恋人が長い間戻ってこないことに不安を抱いていた奈央も、突然妻を亡くし、家族とのこれからに希望が持てなかった春樹も、眞白の温かなサポートによって自分が今を生きる理由を取り戻していきました。

いつか大切な人との幸せが戻るように、あるいは大切な人が過ごせなかった時間のために、彼らはこれからも生きていく。
シンプルなメッセージだったけど、眞白の優しい人柄があってこそ、奈央も春樹も前向きに人生を歩むことを選べたのだと思いました。

序盤のエピソードは、「兄のように自ら死を選ぶ人が減ってほしい」という眞白の純粋な思いが届いたものだったと思います。
しかし3話目にて、眞白にとっても作品としてもターニングポイントとなる出会いが描かれます。それは、この作品が「生きる理由を見失っている人に、生きる理由を再確認する物語」から「眞白が死を希望する人に「選択肢」を与える物語」へと姿を変える瞬間でした。

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眞白にとって海璃かいりという男性との出会いは、自分とは「死」に対しての価値観がまったく異なる人間に衝撃を受けた出来事でした。3話目はちょっぴり難しい内容ではありましたが、自ら生きるか死ぬかを選び、その答えで幸せかどうかは本人にしかわからないということを強く感じたのは確かでした。

海璃との件を踏まえて後半のエピソードでは、眞白は自分の思いをただ話すのではなく、相手の死ぬまでにやりたいことを応援する立場として描かれていたように感じられました。

「勇者になりたい」という夢を心の中では諦めきれていなかった翔には、勇者のように旅をしてみてはどうかと提案し、翔は実際にヒッチハイクをして見聞を深めていきました。ヒッチハイクを機に、美しい景色を見たり人々の温かさに触れたりするのが好きになった翔ですが、彼のエピソードのラストには驚愕。衝撃的ではありましたが、自分の命を懸けて人助けをした彼はこの瞬間、本物の「勇者」になれたのではないでしょうか。

また施設で育ち、高校卒業後の自分の生き方がわからなかった渚とは、鎌倉や江ノ島などに出掛け、何度も楽しい時間を過ごしました。そして渚は、眞白との出会いによって「アシスターになりたい」という夢を見つけました。続編は渚がメインのお話みたいなので、アシスターとして彼女がどう変わったのか気になりますね。

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「生と死」をテーマにした小説はこれまでにも数多く読んできましたが、「安楽死希望者」と「アシスター」という関係が斬新で、作品の個性がよく出ていたと思いました。ただ単に「生きる理由」を描き出すのではなく、その中に生きていく中で大切にしたいものとか考えについて問われる要素が含まれていたところもかなり印象深かったかと。

また渚メインの続編(レゾンデートルの誓い)が既に出ていますが、個人的には眞白のその後とか、今作に登場した他のアシスターのお話も読んでみたくなりました。登場人物の視点が変わることで、また新たな気付きに出会えるシリーズになりそうですね。

眞白との面談によって、登場人物それぞれが「自分らしい生き方」を選んでいく過程が心に残る良作でした。今の私が「好き」と思えるもの(趣味とか)を大切にして、毎日楽しく過ごせたらいいなと今作を読んで思いました。

収録されているひとつひとつのエピソードがそれぞれ1本の映画のような、とても美しい物語でした!

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