YYI

超短編!

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マガジン

  • to him, for him

    5篇からなる短編集。

  • ひとこと

    小説に盛り込めなさそうな歌詞のようなひとこと集。意味はあまりない。

最近の記事

予感

私はきっと、不幸になるなあ。 あなたの視線の先を追っていればわかること。 いまいちメイクの映えない素朴な顔や、 寂しい胸元。 今ですらあなたを惹きつけられる魅力がないのだから、 これから先、きっときっと 私のことを何とも思わなくなってしまう時が必ず来る。 どんどんと二人の未来を作ってるときに こんなこと言ったら私最悪だね。 あなたは泣くかもしれない。 でもね、泣きたいのはこっちだわ。 私はこういう人間だ。 30年生きてきて変わらなかったんだから、 あ

    • 正直な話

      あなたと一緒にいるようになって、正直、見えていた世界が見えなくなったの。 それはあなたが悪いとかではなくって。 自分でも不思議なんだ。 あのうっすら白い、昼でも夕方でもない白昼夢のような世界はなんだったんだろうって。 視界に映る端々に、私の心は異常に掴まれていた。 そして言葉や思考のようなものが抜け落ちて空っぽだった。そうやって一人心を宙に浮かばせて、やっぱりたまに寂しかった。隣に誰かいたらともちろん思った。でもそれすらも淡い空に滲んで、風が撫でた。 あの時ひたすら

      • さいごの一人暮らし

        意外と人は荷物を抱えてしまうもんだなと思った。 どこかしら開けるとモノが湧いてくる。 自分は割とミニマリストだと思っていて、必要なモノしか持っていないつもりだったので、その一つ一つにさらに見切りをつけなければならないのは大変だ。 この部屋に来たばかりに百均で細々と揃えてきた収納グッズは、全てゴミ袋に丸め込んだ。振るとたぷたぷ残っているクレンザーや洗剤の替えも、バサバサと突っ込んだ。 白いセラミックの少し黄ばんだ包丁も、ホーローの小さなミルクパンも、IKEAで買ったカッティ

        • やさしいひと

          いつも誰かに遠慮して いつも自分を庇っている。 そんな自分はずるいやつだと君は言うけど、 僕にはそこかしこに残った君のうちなる傷を見て、 そんなことを思えない。 どうしても他人を思いやってしまう、 癖とも言えるそれは優しさとしか言いようがない。 それは弱さかもしれない。 でも僕はそんな弱い優しさがたまらなく愛おしい。

        マガジン

        • to him, for him
          6本
        • ひとこと
          3本

        記事

          他人どうし

          みな仕事を終え、狭いホームを歩くその背中達は丸まっている。 私は線路に落っこちないよう、つま先の向く方向を気をつけながら、彼の2、3歩後ろを歩き、そのうなじを眺めてみる。 昨日の夜も、今日の朝も、私はあそこにキスをした。 次の電車に乗る人がわっとホームに流れてくる。入り乱れる。その背中は丸まって、波の間に見え隠れする。 本来の世界を見た。 私は足を止める。 どんどん離れていく背中。 でも怖くはない。 きっと次の瞬間、彼は振り向いて、私を見つける。

          他人どうし

          いつもギリギリのタイミングで、巧妙なタイミングで、あなたは夢に見た言葉をくれる

          いつもギリギリのタイミングで、巧妙なタイミングで、あなたは夢に見た言葉をくれる

          わりと上手くできてしまった食事も、どこかしら悲しい味がしてしまう。

          わりと上手くできてしまった食事も、どこかしら悲しい味がしてしまう。

          この本を取ったのは、こうなる運命を見越してのことだったかもしれない。

          この本を取ったのは、こうなる運命を見越してのことだったかもしれない。

          宇宙逃避行

          明日はどこへ行こうか。 熱い風を感じに火星へ 仕事で疲れ切った体を癒しに水星へ ちっぽけな悩みを消しに木星へ 眩ゆい神秘を見に金星へ 軽い運動に土星へ この星はどこまで行っても おんなじ道が巡らされ、 おんなじ人と、おんなじお店と、おんなじ景色ばかり。 手を握る君の瞳がぼんやりしている。 私はその横でなんとも健気な気持ちで握り留めている。 ここにいる限り、私たちには永遠なんてやってこない。 刻一刻と欠けてゆく。 宵の明星が空気を冷ましてゆく。

          宇宙逃避行

          はなむけ

          夜明けの青白い光 真横に倒された部屋の片隅で、花がひっそりと息をしている。 クリーム色の薔薇と、黄色のスイートピー。 その滑らかな肌が愛おしく、 口に含んで食べてしまいたくなる。 私は花束を、お別れの時以外でもらったことがない。 だから花びらの縁が徐々に黒ずみ 瑞々しさを失っていく度に 私は一つ一つけりをつけ、 最後の一輪をゴミ箱に放り入れるとき 別れの実感をようやく得る。 そんなもののために花があるなんて すこし不憫に思えてしまう。 ベッドから這い出して 花瓶の縁

          はなむけ

          しっぽ

          猫がいたらなぁって思ってしまった。 そんなのだめだよ、終わりだよ 遠く鳴るラジオに揺られて 心を部屋の隅に浮かべて 瞼の裏の白さに照らされて シーツの皺を蹴飛ばして 鼻の奥がつんとして 涙を一筋頬に引いて 辛いような、心地良いような 頑張ってる、頑張ってるよ。耐えているよ。 誰がそんな夜を知っていてくれるだろうか。

          しっぽ

          月の影

          夜だというのに、自分の足元から影が伸びていた。 ふと見上げると、月が異様に白く発光していた。 空はそれに照らされ、黒くなりきれず紺色をしていて、雲が一つだけ浮かんでいる。 こんな夜らしくない夜が、愛おしくて切なくてたまらないのは、きっと誰の目から見てもそうなのだろう。 でも今だけは彼との間だけのものだけであってほしい。 幸せな子供時代の続きを辿るのは、彼とであってほしい。

          月の影

          倫理

          誰かにとっては悪だとか 誰かにとっては正義だとか そんなのいいじゃん、生きているのは僕と君だ。 頭ではわかっているよ、でも出来ないよ。 何が僕らを縛っているんだろう。 それは最近の繋がりやすい世界のせいかもしれないし、 それは小さな頃から唱えられた呪いのせいかもしれないし、 それは生まれる前からめぐるDNAのせいかもしれない。 今囚われていることがしょうもなくて意味が無くてくだらないって心底見下してるのに、 それこそが幸せなんだって囁かれるんだよ。 でもこ

          コンビニ

          気分の沈みを、身体の右斜め後ろあたりから眺められるようになった自分は、とても大人になったなぁと思う。 仕事を終え、胃の奥あたりに重さを抱えて駅に着き、あぁあのことがそうさせているんだと電車の中で熱をさまし、自分の街に辿り着く。 しかしそれはいつも諦めで無理に締めくくられ、解決とはまた違う。そしてその積み重ねが軋み、危ない音が聞こえた日は、あのコンビニに行く。 そこには母くらいの年齢の女性が大抵レジにいて、その人に当たると、なんとも言えない安らぎを感じる。 別に会話をし

          コンビニ

          悲しい目

          みんなが今まで隠し持っていたもの もうこんな混沌とした世界ならさ 全部全部一緒だから みんなが悪いわけじゃないからさ 晒してしまおうよ そうしたら世界は一つになれる気さえするよ お世辞とか愛想笑いとかやめてさ よくわからないものに疲れたりしなくなる でもそんな中でも きれいなままの人はいると思うんだ 揺るぎない根を持ってる人が見える 悲しい目をしているのが浮かぶ

          悲しい目

          マスクからチラッと口元が見えると、生々しい、エグい、グロい、と思うようになってしまった…

          マスクからチラッと口元が見えると、生々しい、エグい、グロい、と思うようになってしまった…