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短編小説・掌編小説

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2024年9月の記事一覧

タクシーに乗って【短編】

タクシーに乗って【短編】

 乗車したタクシーが空へと舞い上がる。
「どちらまでいかれますか?」
 隣の運転席は無人。スピーカーから流れる声に
「クジラ通り三丁目」
 と答える。
「かしこまりました」
 スピーカーから返答がある。
 金曜日、19:33、僕はタクシーに乗って、君の住むクジラ通り三丁目へと向かう。
 眼下には星屑みたいなネオン。あの光の一つ一つには、誰かが息づいているというのに、見下ろすとただただ輝いているだけ

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ネギサムライ【短編】

ネギサムライ【短編】

 エコバックを忘れた。仕方がないからネギは背中のリュックに突き刺した。
「ネギを買ってきて」
 と同棲中の彼女から頼まれた。だったらいいけど、そうじゃない。一人暮らしの僕の夕食を少しでも美味しくするためには、ネギがどうしても必要だった。だから、仕事帰りに買っただけ。
 僕は背中にネギを差したまま、自転車で自宅アパートへと向かう。
 今日も馬鹿みたいに暑すぎる熱を放出していた太陽が、ようやく地に沈も

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海を見たいともがくだけ【短編】

海を見たいともがくだけ【短編】

 当然だ。「別れたい」君から届いたメッセージ。
 ここ数か月、君と休みを合わせることが出来なくて、ずっと会えていなかったから。それでも、マメに連絡を取っていたら、よかったのかもしれないけれど、出来なかった。仕事が終わったら、少しでも早く帰宅して、食事をして入浴して、一分でも長く眠りたくて。余裕がなかった。その程度の気持ちだったのかと問われそうなので、言い訳には出来ない。だから、僕は
「ごめんね」

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