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【連載小説】トリプルムーン 27/39

赤い月、青い月、緑の月
それぞれの月が浮かぶ異なる世界を、
真っ直ぐな足取りで彷徨い続けている。

世界の仕組みを何も知らない無垢な俺は、
真実を知る彼女の気持ちに、
少しでも辿り着くことが出来るのだろうか?

青春文学パラレルストーリー「トリプルムーン」全39話
1話~31話・・・無料
32話~39話・・・各話100円
マガジン・・・(32話掲載以降:600円) 

※第1話はこちら※


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***第27話***

 今日は俺の唯一の友達である女の子と、街外れの公園で会う約束をしている。彼女とはかれこれ二年ほどの付き合いになるが、お互いによき友人として付き合い、ときに一緒に外出をして共通の趣味である野良猫の餌やりなんかをしている。

 彼女も俺がただ一人の友人らしく、休みの日はわりに一人で家にこもっていることが多いらしい。彼女は俺より年が二つほど下だが、そんな年頃の若い女子が一人で家に引きこもりがちなのも不健康かなと思い、ときどき気にかけては外に一緒に遊びに行くことにしている。

 まあ彼女も社会人としてきちんと働きには出ているし、一端の大人ではあるのだから、そんなのはただの余計なお世話なだけかもしれないが。
 彼女は少し変わっているところがあるが、俺としては個性的な彼女のキャラクターがとても気に入っていた。

 顔立ちこそ幼い印象があるものの、その大きくて魅惑的な瞳は、全てを見透かしたような不思議な魅力にあふれているし、頭も非常にいい。俺なんかには想像もつかないような思考を、常に頭の中で駆け巡らせているという印象がある。
 ときどき突拍子もない知識や概念を語り始めたり、自由奔放な行動に出たり、冗談なのか本気なのか分からない話をすることもある。でもその全ては、人を不快にさせないユーモア溢れる言動であることは間違いなかった。

 そんな一風変わった彼女に対して、俺は友人としての好意を抱いていいたが、付き合いを重ねるうちに少しずつ異性としても意識するようになってきていた。


「思い切って告白してみようかな?」


 ふとそんな考えが頭の中をよぎった。それは案外悪くない考えのような気がした。きっと彼女も俺に対して、少なからぬ好意を持ってくれているはずだ。
 あわよくば、と言ってはなんだか失礼だが、うまくいけば二人は互いにもっといい関係になれるのではないか、そんな風に自然な考えが頭に思い浮かんだ。しかし、そう思った瞬間なにかが食い違っているような妙な違和感を覚えた。


「あいつ、鈍くさい俺なんかと違って鋭い感性してるからなあ、俺にちょっとでもよこしまなものを感じたら、その瞬間に完全に心のシャッター降ろすだろうな。」


 決してよこしまな気持ちで付き合いたいと思ったわけではないが、彼女に対して今までと違う感情を持って接したら、途端に彼女にそっぽを向かれてしまいそうで、俺は少し怖くなってしまった。


「まあ、ごちゃごちゃと面倒なことを考えるのは一旦おいておくか。いつも通り二人で会って、話して、飯食べて、それで何かいつもと違う手応えがあれば、流れに沿っていくだけさ。要領の悪い俺が難しいこと考えたって、何一つうまくはいかないだろう。それに何より、あいつが俺の大事な友達であることには変わりないんだし、へんに焦ったことをする必要もないか。」


 そんな独り言を呟きながら、俺は朝食の後片付けをし、外へ出掛ける準備に取り掛かった。

 簡単な身支度を整えると、俺はさっそく街へと出掛けることにした。待ち合わせの時刻まではまだ時間はあるが、彼女に会えると思うと居ても立ってもいられなくなり、思わず家を飛び出してしまった。

 俺の誕生日に花を咲かせてくれたサボテンに対して、いきなり留守番をさせてしまうのも悪い気はしたが、帰ったらたっぷり水をやるから少し勘弁してくれよな、と一応心の中で言い訳だけはさせてもらった。


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