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【ショートショート】ポケット大増殖

 おやつの時間。ビスケットを振りながら、幼稚園で習った歌を妹がゴキゲンに歌っている。
 歳の離れた妹はとても可愛い。今の歌だって、音程は全く安定していないし歌詞も曖昧だから何の歌かわからないが、将来は天才歌手に違いないと思っているほどだ。

 こっちもつられて笑いながら眺めていると、妹がポケットにおやつのビスケットを入れだした。瞬間、何の歌か理解する。『ふしぎなポケット』だ。叩くとビスケットが増えるという、あれ。

 妹はあれを試したいんだろう。ニコニコしながら叩こうとしている。
 服の中でビスケットを粉砕するのを止めようと、僕が慌てて椅子を立ったときにはもう元気よく叩いていた。
 ビスケットが割れる音がわずかに聞こえる。
 一拍遅れて、妹は過ちに気づいたようだ。泣きそうな顔を励まそうと近づく。
 その時、自分のジーンズの両太ももに違和感を覚えた。
 目を向けると見覚えのないポケットが4つも増えている。

「こっちかよ?!」

 おやつを粉砕してしまい、癇癪寸前の妹がもう一度力強く叩く。

 その途端、僕のパーカーのお腹に猫型ロボットのような大きなポケットが出現した。お気に入りだったのに。

 それを見た妹が砕かれたビスケットを忘れて笑い出してくれたから、このポケット大増殖現象については深く考えないようにする。

(了)

こちらの企画に参加させていただきました。

初めての参加なので、何か不備があれば教えていただきたいと思います。


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