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【短編小説】運命で出逢ってしまった二人

小汚い格好をした中年らしき男が、フラフープを回していた。素敵な腰使いで。
一方その頃、小汚い格好をした中年らしき女は、一人でバトミントンをしていた。シャトルを落とさないように、ポンポンと叩き続けていた。素敵な腕使いで。
二人が出逢うまで、あと10時間。

男は、外に出て、セブンイレブンに向かった。酒が欲しくなったのだ。しかし途中で、本当に自分はお酒を欲しているのかわからなくなり、引き返して家に帰った。
女は、外に出て、サイゼリヤに向かった。お腹が空いたのだ。しかし途中で、家に余ってるカップラーメンでしのごうと思い、引き返して家に帰った。
二人が出逢うまで、あと5時間。

男は、たくあんをチュパチュパと食べ始めた。
たくあんの先端をチュパチュパと食べ、しばらく食べたら逆さまにして反対の先端をチュパチュパと食べる。その繰り返しをした。
女は、カップラーメンにお湯を注がず、そのまま食べた。拳で麺を割り、ボロボロになった麺のカスを摘んでは食べた。無くなるまで、食べ続けた。
二人が出逢うまで、あと15分。

男はその時、窓を開けた。近くでデモでも起きているのだろうか。大きなサイレンと拡声器による声が、窓越しにも伝わってきて、何が起きているか窓を開けて見た。
そこでは、「人類を破壊する」という旗を掲げた、目視でざっと50人くらいの人が居た。全員旗を掲げていて、拡声器で「我々は世界を救済するのだ」等と言い続けている。
女もその時、窓を開けた。男と同じ理由で。そのテロなのかデモなのかわからない光景を見ていたら、狂ってきてしまい、元々精神が不安定だった女は、天からジュリエットを降ろして、自分に降臨させた。私はジュリエット。声色が半音高くなり、体の動かし方も変わった。
男は、外の光景を見ていたら、花火が打ち上がってるのに気付いた。パーティグッズの花火だろうか。そこまで高くあがらないが、花火が何発も上がってくる。そうだ、他にも、この光景を眺めている人は居るのだろうか。そう思い、花火の為に見上げた顔を、更にのけぞって見上げると、女と目が合った。
「おおロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」
二人が出会った瞬間だった。

男はそう言われて、なんか聞いたことあるなと思った。シェイクスピアか。シェイクスピアだ。俺はロミオなのか?俺はなんなんだ?なんで俺にそう言うんだ?
女は、男を見つめていた。男が何か言うのを待っていた。
花火が打ち上がり続ける。「人類よ、滅亡せよ!!」という声と共に。
男は言った。
「そうだよ!俺がロミオだよ!」
「やっぱりそうなのね!」
「俺は独り身で寂しいんだ、もしも君がジュリエットなら、俺と付き合え!いや、結婚しろ!!!」
「まあ、ロミオがそう言うなら、喜んで!!でもね、我が家には、しきたりが、、無い!?無いわ!!我が家には冷房25℃まで、というしきたりしか無いわ!結婚しよう!!」
何発も花火が打ち上がる。それは色鮮やかな花火だった。
「行けーー!!!!」
その集団は、松明に火を灯し、アパートに直撃した。
アパートは燃え盛り、メラメラと上の階へと炎が進んで行った。男と女は、お互いに夢中で、その事に気付かなかった。
男の部屋に炎が舞い込み、男は振り返り恐怖で叫び、だがジュリエットの事を見続けた。
「ジュリエット!!!」

ジュリエットは、まだ、男がそんな状況の中、見てくれている事に気付かなかった。
やがて、ジュリエットの部屋にも炎が舞い込み、ジュリエットは振り返り恐怖で叫び、だが、ロミオの事を見て「愛してるわ!!!!」と叫んだ。
ロミオの所に炎が届き、ロミオはメラメラと焼け死んでいった。
「ロミオ!!!!!!」

ジュリエットはそれを見ながら、自分の体にも炎が触れた事に気付き、それでもロミオが居た跡を見て、「ロミオ!!!!!!」と叫びながら、燃えていった。

そのテロリスト達は、大量の警官と戦い続けた。
一人、また一人と倒れていったが、男と女のほんのひとときの愛の時間は、全く倒れていかなかった。
あの、愛の時間がある限り。
人類は、生きていける。
何か間違いがあっても、生きていけるんだろう、多分。この世界、狂ってるくらいが丁度良いんだ。

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