【キューバ2000夏】ダイキリと一皿のポテトチップス【ヘミングウェイゆかりの場所】7月2日
2000年7月キューバ旅の記憶
ハバナに着いて2日目。初日は、ハバナ近郊の漁村コヒマルに行った。
ヘミングウェイ「老人と海」の老漁師のモデルとなったグレゴリオ・フエンテス氏の家を訪れたが、お休み中で、直接お会いすることはできなかった。
その代わりというか、ヘミングウェイとグレゴリオ氏の行きつけのレストラン・バーの壁にあるグレゴリオ氏の写真と同じ構図の写真となる、魚を手に持ってコヒマルの歩道を歩く老漁師と出会った。
コヒマルは、ヘミングウェイ所有の船「ピラール号」が出入りして、ボートフィッシングの拠点であった。ピラール号は、ハバナ郊外の記念館に保存されていると聞いたので、見に行くことにした。
ハバナ中心部旧市街から、せっかくなら、クラシックのアメ車に乗って行きたかったのだが、数台のクラシックカー・ドライバーに尋ねたところ、少し遠いしエンジンの調子も心配なのでと断られた。クラシックカーのタクシーは、観光用で旧市街周辺しか走ることができなかったのかもしれない。
半世紀以上前のアメ車タクシーを諦めて、車体上にタクシーの表示がある正規の小型タクシーをつかまえ、ヘミングウェイの旧宅へ向かった。
正規タクシーは、比較的新しいと言っても、10年落ちくらいの小型の輸入車だった。経済制裁されて、モノのないこの国では、中古車を輸入している。旧ソ連製の車が多いが、なぜか、西欧やアメリカの中古車も走っていた。旧共産圏製の車はわかるが、西欧・米国製の車は、どういうルートで入ってくるのだろうか。完全に、経済封鎖まではされてはいないようだ。
50年以上のクラシックカーを修理しながら走るこの国では、10年落ちの西欧・米国製の車は、新車同様の高品質な車であった。
郊外へ向かう途中で、赤い車が事故っているのに遭遇した。乗っているタクシーと同型の色も同じ車だった。タクシー運転手は、スピード狂の奴もいる、注意しなければいけないと言った。
このタクシー運転手は、安全速度で丁寧な運転だったが、確かに、この国の人には、ラテンの血もながれているので、スピードを楽しむ奴もいるだろうと思った。クラシックカーにしなくて良かったと一瞬思ったが、50年以上のクラシックカーだと、スピードが出ないので、逆に安全かとも思った。
どうして、このような事故になったのか、理解できなかった。まさか、ラム酒の飲み過ぎ飲酒運転ではないだろうが、多分、スピードの出し過ぎ、ハンドル操作ミスではないかと思う。
モノ不足で、特に、自動車は入手困難だと思われるので、もったいないとも思った。ただし、これくらいなら、なんでも工夫して修理し使い続けるこの国では、また、復活して走り続けるのかもしれない。
そうこうしているうちに、現在は、記念館になっているヘミングウェイの旧宅に着いた。
着いたのはいいが、記念館は、なぜか、休館とのことだった。建物内部には、入れないが、敷地内は見学可能なようだった。
内部からの撮影はできなかったが、ヘミングウェイが生前過ごし、創作活動に使った書斎には、ヘミングウェイに関連する様々なものがあった。窓ガラスのない窓からは、内部が見えた。
木々に囲まれた敷地内には、プールもあり、その近くに、ピラール号が保存展示されていた。
生前は、昨日行った漁村コヒマルの港に係留されていたフィッシングボートは、今は、陸に上がり、ヘミングウェイ旧宅にある。
ピラール号には、フロリダ・キーウェストの表記があり、アメリカ船籍だったとわかる。キューバとアメリカが断交する以前には、コヒマルに出入りできたのだろうが、断交後はどうだったのか。コヒマルのレストランに、カストロとヘミングウェイの写真もあったので、革命後にも、船だけでなく、ヘミングウェイ自身もキューバを行き来していたので、結構、批判もあったように聞いた記憶があるが、定かではない。もっと、詳細な正確なことを知りたくなった。
旧邸宅敷地内には、ベンツが一台展示保存されていた。ハバナ2番の外交官ナンバーのようにもみえるので、ヘミングウェイが、生前、この地で使用していたものなのだろうか。
フロント部分を見ると四角いヘッドライトで、比較的新しいと思うが、年代的に、ヘミングウエイが実際に使用していたのだろうか、少し、疑問に思えたが、これも正確なところはわからない。
知らないこと、勉強しなければならないことが、多いと思った。
待たせていた赤色の正規タクシーで、ハバナ中心街を目指し来た道を戻った。途中、大型トレーラートラックを改造した「ラクダ・バス」や世界的大ヒット映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」でライ・クーダーが乗ってハバナ市内を走りまわっていたのと同じサイドカーバイクも走っていた。
タクシー以外の手段もあったのだと思ったが、わかりやすさ・安全面などを考えて、今回の赤色正規タクシーで正解だったと思った。若いタクシー運転手は、安全運転で、礼儀正しい、良きキューバ人だったことも良かった。
サイドカー付オートバイで、風を切って、葉巻でもふかしながら、キューバ・ハバナの街を走るのも悪くはなかったかもしれないが、3人ともノーヘルのようでは、ハバナの道路事情も考えて危険だったので、眺めるだけでよかったと思う。
タクシードライバー氏が、近くに、ヘミングウェイが通っていた有名なレストラン・バーがあるから行ってみてはどうかと勧めたので、ここで、タクシーを降り、歩いて、その店へ向かった。
「ラ・フロリディータ」という、ダイキリが有名な店だった。
ヘミングウェイは、この店のフローズン・ダイキリが好きで、毎日のように通い、砂糖控えめの独特な味を楽しんだとのことだ。
フローズン・ダイキリの味がどんなのか楽しみで、その店に入った。
こぎれいな店内に入ると、バーカウンターあり、何人かのバーテンか料理人がいた。客は数人いるだけだった。空いている席に座り、フローズン・ダイキリを注文した。するとすぐに、一皿のポテトチップスが出された。
ポテトは注文していないのだがと思ったが、続けて出されたフローズン・ダイキリに口をつけた。美味かった。甘さ控えめで、これまでに飲んだことのあるカクテルの中で、一番美味いと思った。
フローズン・ダイキリ発祥の店と言われるだけはある納得の味だった。
英語と片言のスペイン語で、年配の店員に、ヘミングウェイのこと、ダイキリのことなどを尋ねた。説明してくれたようだが、お互いの英語力、スペイン語力が邪魔して、正確なことはわからなかったが、実は、この日が、ヘミングウェイの命日で、そのため、無料でポテトチップス一皿をダイキリのつまみとして提供しているというようなことを言った。
この時、初めて、7月2日がヘミングウエイの命日だと知った。
ヘミングウェイの命日も知らずに、キューバに入国し、命日の前日にヘミングウェイゆかりのコヒマルに行き、レストランバー老漁師の写真に出会い、
本日午前中には、ヘミングウェイ旧宅へ行き、ゆかりの品々に出会ってきて、今、ゆかりのレストラン・バー「ラ・フロリディータ」で、ヘミングウェイが大好きだったフローズン・ダイキリを味わっている。最高に美味いフローズン・ダイキリを、無料のポテトチップスをつまみに。
最初に飲んだのは、この店の通常のフローズン・ダイキリだった。ヘミングウェイは、さらに甘さ控えめのラム酒の濃いダイキリを好んだという。
そこで、2杯目は、ヘミングウェイ好みにアレンジされたレシピのダイキリを頼んだ。これにも、ポテトチップス一皿がついてきた。
片言のスペイン語でやりとりするうちに、老バーテンダーは、変な東洋人を気に入ったのか、ヘミングウェイがいつも座っていたカウンターの隅の席に座って良い、写真を撮れと言ってくれた。
ヘミングウェイのことをいろいろと説明してくれたようだが、老バーテンダーが、直接、ヘミングウェイと会ったことがあるのかないのかは、わからなかった。ヘミングウェイは、1961年のこの日に米国アイダホ州で亡くなっているので、この老バーテンダーが若い時に会ったかどうか、さらに、
午前中記念館に置いてあったハバナ2番の外交官ナンバー付ベンツの車齢車歴も、年代がどうなのか、さらにわからなくなった。
ラ・フロリディータ店内は、団体の観光客も入ってきて、混んできた。
3杯目のフローズン・ダイキリを頼んだ。今度は、普通のにした。なぜか、ポテトはついてこなかったが、美味いダイキリを味わった。
半氷の状態だったので、カクテルを飲むというよりも、シャーベットを味わっているという感じだった。甘さ控えめのシャーベットは、とても美味かったが、意外とアルコールが強いようで、3杯が限界だった。
支払いを済ませ、何人かのバーテンダーと、通じているのかいないのかわからないカタコトスペイン語で挨拶をして、最高のダイキリとポテトチップスに大満足の店を出た。
7月2日のハバナは、暑い日差しの午後だった。
偉大な文豪ヘミングウェイは、1961年7月2日、アメリカの自宅で亡くなった。そのことを知らずに、2000年7月、キューバを訪れた。
革命41周年というポスターが貼ってあったので、キューバ革命は、1959年ということだったか、そうだったな。歴史教科書を今一度読まないといけない。現代史は、あまり、教科書に書かれていないが、勉強する、勉強し直すことは多いと感じる。
図らずも、ヘミングウェイの命日の前後に、文豪が20数年過ごしたキューバのゆかりの場所を訪れることになった。
7月2日に、「ラ・フロリディータ」で、味わったフローズンダイキリとポテトチップスは、最高だった。暑いキューバの旅では、まだまだ、興味深い不思議な出来事・出会いがあった。さらに、旅の記憶をメモしたいと考えている。
(2000年7月キューバ旅の記憶)
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