Alternative Machine

オルタナティヴ・マシンは「⼈⼯⽣命 (ALife) 」研究から⽣まれた理論や技術の社会…

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オルタナティヴ・マシンは「⼈⼯⽣命 (ALife) 」研究から⽣まれた理論や技術の社会応⽤に挑戦する研究者集団です。国内外のALife研究者とパートナーを組む、ALifeに特化した世界唯⼀のテクノロジー企業です。

最近の記事

メイヤスーの減算モデルと遅延記憶装置 (ALife Book Club 3-4)

前回はちょっと脱線して、科学的文脈との接点の話をしてみました。今日は本筋に戻ってメイヤスーが提案する減算モデルのお話をしていきます。 減算モデルと縮約モデルまず簡単な復習から始めさせてください。 減算・縮約という概念はベルクソンの提示した二つのモデルから来ていました。あらためて書くとこんな感じです。 全ては外界の性質からきていて、知覚はそこから差し引くだけ、というのが(a)の減算モデルだったのに対して、記憶(特に縮約的な記憶)が入ることでもともとの外界の性質とは違うものに

    • 科学の文脈で縮約モデルと減算モデルを考える (ALife Book Club 3-3)

      前回は、ベルクソンの二つの知覚モデルをもとに「減算」と「縮約」という考えを紹介しました。 そして本論の流れとしてはこの「縮約モデル」を「減算モデル」へと復活させるためにどうするかということになっていきますが、今回は一呼吸おいて、科学の文脈での話をしてみようと思います。 科学での知覚モデルは縮約的か?初回に科学的視点からみると言ってしまったのでこの話をしていきますが、哲学の議論を科学に落とし込むと大体つまらないんですよね、、そうならないように頑張りますので、どうかお付き合いく

      • 知覚のモデルとしての「減算」と「縮約」 (ALife Book Club 3-2)

        前回で『減算と縮約』のあらすじをみたので、今回からはもう少しその内容に入っていこうと思います。 今回取り上げるのは、メイヤスーが着目したベルグソンの二つのモデル(それぞれ「内在あり」と「内在なし」に対応)、すなわち、 の二つです。 ヴァレラ「身体化する心」との関係その二つのモデルの話に入る前に、補助線として以前とりあげたヴァレラ「身体化する心」の内容との関係性についてお話させてください。 メイヤスーとヴァレラの議論は背景としている文脈は違うものの、対象としているもの(

        • もし人工生命の研究者がメイヤスーの『減算と縮約』を読んだら(ALife Book Club 3-1)

          はい、表題のとおりです。元ネタ古くてすみません、、 メイヤスーは思弁的実在論で知られるフランスの哲学者でして、今回から取り上げる『減算と縮約』(が収録されている『亡霊のジレンマ』)もばりばりの哲学書になります。 それを僕ら(人工生命研究)の観点から読み解いてみようというのが今回の趣旨です。哲学側からも科学側からも文句が来そうですでに足が震えてますが、なにとぞ最後までおつきあいください! はじめにまず、基本情報から。 今回からお話するカンタン・メイヤスー『減算と縮約』は、

        メイヤスーの減算モデルと遅延記憶装置 (ALife Book Club 3-4)

          これこそ真の必読書。人工生命の原点にして金字塔 (ラングトン「人工生命」 、ALife Book Club番外編)

          今回取り上げるのは、人工生命の創始者であるクリトファー・ラングトンによる「人工生命」(1989)という文章です。 これは歴史的に重要なもので、なぜなら、人工生命の初めての会議(ワークショップ)の論文集に収録されており、「人工生命」という新しい分野を宣言した文章というべきものだからです。 しかも、初期のものだからといって荒削りな感じはせず、むしろ人工生命の考え方や実例が読みやすくまとめられているので、初学者にもおすすめできるものです。 とはいえ、そんな昔の会議の論文集なん

          これこそ真の必読書。人工生命の原点にして金字塔 (ラングトン「人工生命」 、ALife Book Club番外編)

          仏教思想が心の科学の本にでてきてしまう理由 (ヴァレラ「身体化された心」 #4, ALife Book Club 2-4)

          いまさらなんですが、心を科学したいと思う理由ってなんでしょう? 心というもの自体は身近なもので、科学を知らなくても普通に付き合っていけます。そこであえて科学を導入しようとする場合のモチベーションは、心のわからなさを科学ですっきりさせたい(そしてラクしたい)ということではないでしょうか。実際、第二回に説明した人工知能モデルはわりとスッキリした心のモデルです、ここで済めばその目標は達成できているといえます。 でも、ここで終われないというのが本書の特徴です。なんで終われないのか

          仏教思想が心の科学の本にでてきてしまう理由 (ヴァレラ「身体化された心」 #4, ALife Book Club 2-4)

          心の身体化、そしてエナクティヴィズムへ (ヴァレラ「身体化された心」 #3, ALife Book Club 2-3)

          「心とはなにか」をめぐる本書の話も佳境にはいってきました。 心は物質ではないから科学の対象にできないのでは、というところから始まり、それに対して物質ではないけれど科学が取り扱える計算という概念や、それを具現化した人工知能をモデルとすればアプローチできるはず、というところまでやってきました。(そして、エキスパートシステムを使う場合は「認知主義」、ニューラルネットワークを使う場合は「コネクショニズム」という立場なのでした。) よって当初の問題が解決されたので、ここからはさくさ

          心の身体化、そしてエナクティヴィズムへ (ヴァレラ「身体化された心」 #3, ALife Book Club 2-3)

          オープンエンドな進化的アルゴリズム (ALife Book Club番外編)

          今回は番外編として来週発売される「Pythonではじめるオープンエンドな進化的アルゴリズム」という本の紹介をしようと思います。 この本の著者にはいっている岡瑞起さんは人工生命の研究者であり、弊社の共同創業者の一人でもあります。去年には、ALIFEというタイトルの本も出されています。そんな岡さんたちが今回出したのは「オープンエンドな進化的アルゴリズム」についての本です。まだ発売まで数日ありますが、なんと事前に読ませてもらう機会があったので、ネタバレにならない範囲で紹介させても

          オープンエンドな進化的アルゴリズム (ALife Book Club番外編)

          人工知能は心のモデルになるか (ヴァレラ「身体化された心」 #2, ALife Book Club 2-2)

          今回は心と人工知能の話です。 最近は大規模言語モデルがすごくて、人工知能に心があるのかということが急に現実味を帯びてきました。十年くらい前に"her"というChat AIと人の恋愛映画がありましたけど、もはやフィクションとは思えない感じです。 しかしこれは結構重大な問題で、もしAIに心があるならばそのスイッチを切っていいのか、勝手にプログラムを書き換えてもいいのか、そもそも人権や市民権が与えられるべきでは、、などと倫理的な問題が山ほどでてきます。 これを解決するには「心と

          人工知能は心のモデルになるか (ヴァレラ「身体化された心」 #2, ALife Book Club 2-2)

          どうやったら心を科学で理解できるのか (ヴァレラ「身体化された心」 #1, ALife Book Club 2-1)

          こんにちは!Alternative Machine Inc.の小島です。 前回の"Endophysics"に引き続いて、今回からヴァレラ、トンプソン、ロッシュ著「身体化された心(原題 "the Embodied Mind")」(1991)についてお話していきます。 この「身体化された心」は前回までの物理の話とうってかわって心についての本です。僕らの専門分野である「人工生命」はミニマルな生命体を作ろうとする分野に思われがちですが、脳や認知も研究の対象です。(ただし、神経科学と

          どうやったら心を科学で理解できるのか (ヴァレラ「身体化された心」 #1, ALife Book Club 2-1)

          "Endophysics"解説 #4 (最終回) 内部観測者からしか見えない物理法則 (ALife Book Club 1-4)

          こんにちは。4回に渡ってお送りしてきたオットー・レスラーのEndophysics、今回がついに最終回です。これまでに、レスラーが「内部観測者」というパラダイムで物理に殴り込みをかけていること、そしてそれを示すためにミニマルな仮想世界として、ボールが跳ね回る機械を導入したことをお話してきました。 前回までの記事はこちらです。 今回はそのようにして作った「内部観測者」の性質を見ていきます。 そこで重要なのが、前回の最後にお話した四角の区別可能性です。簡単におさらいすると、下

          "Endophysics"解説 #4 (最終回) 内部観測者からしか見えない物理法則 (ALife Book Club 1-4)

          "Endophysics"解説 #3 仮想世界内のシンプルすぎる「脳」モデル (ALife Book Club 1-3)

          今回は、ついに初回にちら見せしたこの機械の解説に入っていきます。 前回までにお話したのは、レスラーは「内部観測者」という観点を物理の新たなパラダイムとして持ち込もうとしているということでした。それは、「観測者が世界の内部にいることが物理法則に影響する」という主張で、ここでいう内部と外部とは、Simulacron-3(ないしマトリックス)でいえば、シミュレーションされた仮想世界内にいる人の観点と、仮想世界をシミュレーションしている人の観点に対応します。 では、これを実証する

          "Endophysics"解説 #3 仮想世界内のシンプルすぎる「脳」モデル (ALife Book Club 1-3)

          "Endophysics"解説 #2 内部観測者 (ALife Book Club 1-2)

          前回は物理における「パラダイム」の力についてお話しました。この本では驚くほど単純な機械を題材とするにもかかわらず、すごくスケールの大きい話をしていきます。それが可能なのは、レスラーが単純な機械を通じて新しいパラダイムを提示しようとしているからなのです。今回はその新しいパラダイムである「観測者が内部にいることが物理法則に影響しうる」についてお話していきます。 そのために、まずは物理における「観測者」の話をさせてください。 「誰もいない森で木が倒れたときに、その音は存在するか

          "Endophysics"解説 #2 内部観測者 (ALife Book Club 1-2)

          "Endophysics"解説 #1 パラダイムについて (ALife Book Club 1-1)

          今回取り上げるのは、オットー・レスラー著の”Endophysics”(「内在物理学」)です。 1998年出版の本で和訳は出版されていません。ただし、中核となる6章に相当する部分だけは「現実の脳 人工の心」に収録されています。 さて、初回から恐縮なのですが、この本かなり難解で、この本を理解しているという人に出会ったことがないほどの本です。 なぜこうも難解とされているかというと、取り扱っている内容が複雑だから(だけ)ではありません。むしろその逆で、モデルが単純すぎるからだと

          "Endophysics"解説 #1 パラダイムについて (ALife Book Club 1-1)

          Introduction

          Alternative Machineは人工生命の研究者を中心に組織された集団です。「あらゆるものに生命性をインストールする」をミッションに、人工生命の理論や技術、哲学をベースにしながら、自律システムや進化システムなど様々な生命技術の研究開発を行い社会応用することで技術を生命化するとともに、人を含む既存の自然システムをアップグレードしていくことを目指しています。 Alternative Machine は、株式会社という形とりながらも、基礎研究、技術開発に加えて、アート制作