「生命そのもの」にせまる理論の探求 【Robert Rosen "Life Itself", ALife Book Club 6-1】

こんにちは。Alternative Machineの小島です。
今回からは生命そのものの本質に迫ろうとした数少ない試みの一つである、Robert Rosenの"Life Itself"という本についてお話します。
なかなか難しい(そして評価も定まっていないところもある)のですが、ぜひともお付き合いください。

今回から取り上げる本は、「生命とはなにか」を考える人工生命の分野にとってかなり直球の本、その名も"Life Itself" (生命そのもの)です!

アメリカの理論生物学者ロバート・ローゼンによって1991年に書かれた本書、和訳もされておらずマニアックな部類ではあります。それでも2500回くらい論文で引用されていておりけっこう影響力がある本なのです。

以前からとりあげようと思っていたもののなかなか難しくて渋っていた本書、頑張って解説していこうと思います。
(とはいえ、準備が追いつかず先週はお休みしてしまいました、、すみません、、)

「生命そのもの」を探求するとは

そもそも「生命そのもの」がなんで研究の対象になるのか、というところから始めてみます。というのも一般的に生命の定義とされているものがあるので、そんな話は必要ない、という反応がありうるからです。

定義としては、たとえば、①膜で覆われていること ②内部で代謝反応があること ③自己複製できること ④進化できること、なんかが挙げられることが多いです。

でもこういった性質を並べることで本当に「生命とはなにか」という問いに答えた気になれるでしょうか?

もっというと、これらは見知っている生命の特徴を並べているだけで、生命という現象の本質、すなわち「生命そのもの」には迫れていないのでは、ということが問題なのです。

この問題にむきあっている一つの分野が人工生命であり、より広い視点("Life as it could be")に再配置して考えるというのがそのアプローチでした。見知っている生命とは違う生命を作っていくことで、身近な生命観によるバイアスにとらわれない、本質的な生命の理解にせまろうというわけです。

一方で作るだけではなく、理論も考えたいところです。
でもこれはなかなか難しくて、というのも、見知っている生命体特有のなにかではなく、「生命そのもの」の本質を捉えるものでなければいけないからです。必然的に抽象的な理論とならざるを得ません。
そのため、ここに正面から向き合った理論というのは多くなく、完全に成功したといえるものはない、というのが現状です。

そんな茨の道に進んだ本書では、圏論的な道具立てを使い、生命には機械では作れない特有の構造があることを示しました。

つまり、構造という抽象的なレベルで、生命とそれ以外のものの区別を理論的に見出したというのです。

内容についての論争

これはかなり大きな主張です。生命は機械とは違うということを理論的に示したということになるからです。

ところが、この結果の正しさについては論争があります

例えば以下のChu&Hoによる論文(2006)では、ローゼンの証明は間違っていて、本書で作れないとされた構造は実現可能である、と主張しています。

これに対し、ローゼン支持者で"More Than Life Itself" という本まで書いているLouieは、むしろその主張のほうが間違っているという論文を出しました。

これに対し、Chu&Hoもさらに反論した論文を出しています。

そんなわけで、ローゼンの結果の評価は定まっておらず、ローゼンが主張した結果「生命には機械で作れない構造がある」という主張が正しいのかは不透明になっています。

次回予告:機械という概念

とはいえ、本書はこの「生命そのもの」の理解という難問に取り組んでいるということだけで、十分読むに値するものですし、まずはその主張を理解するところから始めていければと思います。

次回は、手始めにローゼンが機械をどのように理論的に扱ったかというところから見ていこうと思います。抽象的な議論になっていきますが、ぜひともおつきあいください。

では、また来週!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?