これこそ真の必読書。人工生命の原点にして金字塔 (ラングトン「人工生命」 、ALife Book Club番外編)

こんにちは!Alternative Machine Inc.の小島です。
いつもはYouTube動画"ALife Book Club"でとりあげている本の話をしているのですが、今回は番外編としてクリストファー・ラングトンの「人工生命」という文章についてお話します。
「人工生命の必読書」をとりあげているはずのALife Book Clubは現状かなりマニアックなチョイスになっていますが、今回はガチの必読書です。

今回取り上げるのは、人工生命の創始者であるクリトファー・ラングトンによる「人工生命」(1989)という文章です。

これは歴史的に重要なもので、なぜなら、人工生命の初めての会議(ワークショップ)の論文集に収録されており、「人工生命」という新しい分野を宣言した文章というべきものだからです。

しかも、初期のものだからといって荒削りな感じはせず、むしろ人工生命の考え方や実例が読みやすくまとめられているので、初学者にもおすすめできるものです。

とはいえ、そんな昔の会議の論文集なんて手に入らないよ、、と思われるかもしれません。ところが、なんとこれ、岩波書店から和訳が出ています!!!!

はい。この「人工知能 チューリング/ブルックス/ヒントン〈〈名著精選〉 心の謎から心の科学へ〉」に、ラングトン「人工生命」はいってます。

これ、界隈の研究者にもあまり知られていない気がするんですよね。なんといってもタイトルにラングトン入ってないので、書店で見ても気づけない、、、人工生命研究者の端くれとしてもっと頑張らないとと思わされます、、、

この本はラングトンだけでなく、タイトルにもあるように、チューリングによる「チューリングテスト」についての文章や、Roombaで知られているブルックスや、深層学習のヒントンの文章も収録されていて、かなりお得です。
あと、巻末に収録されている日本の六人の研究者による「人工知能研究は何を目指すのか」という座談会が結構おもしろくて、おすすめです。

あ、それでこれを言っとかないといけないんですが、この「人工生命」の翻訳をしたのは僕(と会津大学の橋本さん)です。なので、まあ言ってしまえば今回の記事は宣伝みたいなものですが、これ橋本さんと本当に一生懸命翻訳したのでぜひ読んでいただきたいです。(特に人工生命研究者のかたはぜひともお願いします。そしてできれば買ってください笑)

「ありえた生命」から生命を考える

この本はわりと読みやすくて解説なしで読めると思うのですが、そもそも「人工生命」とはなんぞやという方のために、ざっくりとどんなものかお話してみようと思います。

「人工生命」と聞くと、ホムンクルスみたいなものを作ろうとしているのかと思われるかもしれません。実際はというと、人工生命はけっこう理論的な研究分野で、もっというと「生命とは何か」という問いに答えることを目的としているものです。ただし、普通の生物学や生命科学と違っているのはそのアプローチです。

キーワードは「ありえた生命 (life as it could be)」です。

普通、生命とは何かをかんがえるためには、いろんな生物を観察して、どんな共通の特徴があるか、どのような機構をもっているかということを調べます。でもここに根本的な限界があるとラングトンは考えたのです。それは、僕らが知っている生命("life as we know it")が地球上に存在している生命に限られている、ということです。

例えば、この地球上の生命は炭素鎖でできていますが、宇宙の別の所の生命体はもっと違う素材でできているかもしれませんし、全然違う仕組みで動いている可能性だってあります。となると、地球上の生命だけを研究していてはたまたま地球上に生まれた生命だけがもっている特殊な性質を見ているだけかもしれないのです。でも、地球外生命体が見つかっていない以上、それと比較することもできません。

じゃあどうするか、ということで考え出されたのが「人工生命」という研究分野です。つまり、地球上にある生命以外の例がないなら、自分たちで新しい生命現象をつくってしまえばいいじゃないか、というわけです。自分たちで「ありえた生命 ("life as it could be")」をつくれば、地球上で知っている生命("life as we know it")よりも広い観点で生命を捉えることが可能になるのです。

そして、このあり得た生命は地球上の生命体と同じ素材でできている必要はないので、いろんなやり方で作ることができそうです。実際に人工生命研究では、化学反応を用いたものだけでなく、ロボットや、コンピュータープログラム上での生命といったものまで幅広くアプローチしています。

このアプローチによる研究は現在も続いていますし、ラングトンが始めた人工生命の国際会議は続いていて、今年は日本の札幌でおこなわれていました。その様子はYouTubeでも公開されているので、興味があればぜひのぞいてみてください。

ラングトンの文章は結構網羅的に書かれていますが、さらに現代的な展開まで含んだものとして以下の本もぜひご覧ください。

というわけで、今回は番外編としてラングトン「人工生命」をご紹介しました。「人工生命」もしくは「生命とは何か」に興味がある方には本当におすすめなのでぜひ手にとって見てください。

来週からは通常回にもどって、ALife Book Clubで取り上げていたメイヤスー「減算と縮約」のお話をします
今週もお読みいただきありがとうございました。また次回も是非お読みください!

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