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ベイトソンの情報モデル:サーモスタット (ALife Book Club 4-3)

こんにちは!Alternative Machine Inc.の小島です。
ひきつづきベイトソンの『天使のおそれ』についてお話しします。
(これまでの記事はこちら(#1, #2)からご覧ください。)

今回は、前回取り上げた情報の定義「差異を生む差異」にもとづいて、ベイトソンが想定しているモデルであるサーモスタットを取り上げ、そこから「誤差修正」と「キャリブレーション」という二種類のシステムを考えていきます。

ベイトソンの情報の定義

前回は、クレアトゥーラとプレローマについてお話しました。

プレローマ:物理学や科学の諸法則が記述する無生物世界
クレアトゥーラ:生命世界、精神過程。情報による記述。

そして、生命や心について考えるには物理世界であるプレローマではなく、情報を中心とした世界であるクレアトゥーラを考えなければならないということになっていました。

ベイトソンの優れていることは、ここでとどまらずに、情報を「差異を生む差異」として明確に定義し、さらには具体的なモデルまで与えているということにあります。

今回はその想定されているモデルであるフィードバック制御を見ていきます。これはサイバネティクスの中心的なモデルであり、ベイトソンがメイシー会議から大きく影響を受けている部分だと思います。

サーモスタットによるモデル

ここで題材にするのは「サーモスタット」です。

サーモスタットという名前、聞いたことありますでしょうか?これは温度を保つシステムで、水槽の温度管理なんかだと今でも聞くことがあるかもしれません。
ざっくりいうと、保ちたい温度を設定して、それよりも温度が低くなればヒーターの電源を入れて、逆に温め過ぎたらヒーターの温度を切る、というシステムのことです。

この本だと、室温制御のシステムとして出てくるので、エアコンの温度設定みたいなものだと思ってもらって大丈夫です。
ただ、昔はもっと機械的な仕組みが使われていて、温度制御がバイメタルという二種類の金属を張り合わせたもので実現されていました。

二種類の金属は膨張率が違うものが使われていて、つまり温度を変えたときに大きくなる割合が異なります。そのため、この二種類をはりあわせると、温度に応じて曲がることになります。
このバイメタルの片端を固定しておくと、各温度によってもう一つの端の位置が動くため、それとヒーターの電源に繋がっている電線の位置関係を調整することで、温度によってバイメタルが電線に触れたり離れたりするようにでき、したがって、温度によってヒーターをONにしたりOFFにしたりできるのです。
この電線との位置関係をバイアスと呼び、これをいじることが部屋の設定温度を調整することに相当していました。

ちょっとややこしくなってしまいましたが、この詳細は以下では実はあまり関係なくて、このON/OFFの仕組みが機械的にできていること、そして設定温度がバイアスというつまみでいじれるということがわかれば大丈夫です。

サーモスタットは情報的

この本では、このサーモスタットによって部屋の温度が管理されている状況(仮に設定温度を20℃としておきます)を考えます。

まずは、この部屋には人がいないとし、サーモスタットだけが動作している状況をかんがえます。

サーモスタットの仕組み上、設定温度を20℃としてあった場合も、つねにぴったり20℃に保とうとするわけではなくて、多少の幅があります。この幅も任意性がありますが、仮に±3℃としてみます。
その場合、温度が17℃を下回ると、サーモスタットによってヒーターの電源がONになります。そこから温度がどんどん上がっていき、23℃を上回ると今度はOFFになります。これが交互におこることによって温度が20±3℃に維持されるという仕組みです。

すなわちこのシステムは、現在の温度と設定温度を比較し、その差が一定の幅(ここでは3℃)をこえると、ヒーターのスイッチがON/OFFされるものであり、「差異によって差異を生む」情報的なシステムになっているのです。

サーモスタットの別階層

次に、この部屋に人がいる場合を考えてみましょう。人は設定温度(バイアス)を変えることでサーモスタットに介入できます

この人が外からこの部屋に帰ってきて、ちょっと寒いなあと思ったとします。そのときにこの人はすぐに設定温度を上げることもできるし、もう少し待ったらサーモスタットがヒーターONにするかも、と思って少し様子を見るかもしれません。そしてしばらく経ってみてやっぱり寒ければ設定温度を上げることになるでしょう。

なにを当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、ここでの人による設定温度の調整と、サーモスタットによる温度制御がやっていることが本質的に違う、というのがベイトソンが言いたいことなのです。

サーモスタットの場合は、常に温度を監視していて、その温度が設定温度から一定以上ずれるとすぐにその誤差を解消するように動くシステムです。これを「誤差修正」のシステムと呼びます。

一方で、人による調整はちょっと違います。部屋にいて、ちょっと寒いなあとおもってもすぐになにかをするわけではなく、ある程度様子を見てから設定温度を調整しにいきます。これは寒いとか暑いという判断が曖昧というところも一因ではありますが、ここでより重要なのはサーモスタットの温度管理には幅がある(上の例だと設定温度を20℃としても誤差が3℃あるので、17℃になるときも、23℃になっているときもある)ことです。それゆえにいまちょっと寒くても、長い時間で考えれば適温ということがありえるので、今の温度の誤差にすぐ反応することなくもう少し様子を見ようということになります。
このように、いまの時刻で生じている誤差ではなく、もっと総合的な判断で調整することを「キャリブレーション」と呼んでいます。

「誤差修正」と「キャリブレーション」

「誤差修正」と「キャリブレーション」の別の例もみてみましょう。本書で議論されているのは(ちょっと物騒ですが)ライフルと散弾銃です。

ライフルは一発打つと、一つの弾丸が飛んでいきます。しかも事前に照準をのぞき込んで、狙いと獲物の誤差を確認でき、そしてそれが獲物より右であれば少し左に向きを変えるという調整をしていきます。なのでこれは「誤差修正」システムです。

一方で、散弾銃は一発打つとたくさんの弾丸が発射されます。この場合は、ライフルのように獲物と撃った弾丸との誤差を修正するのではなく、なんとなく方向があっていたかどうかという判断になります。そして特定の獲物に対して何度も撃ったりしないので、一回撃つごとの感覚を記憶していって、自分の感覚をすこしずつ調整していくことになります。よってこれは「キャリブレーション」なのです。

聖なるものへ

だいぶ長くなってきたので、今回はこのあたりで締めようと思います。
「誤差修正」と「キャリブレーション」の違いは「意識」「無意識」の話につながり、ここから本書の中心課題である聖性にも向かっていくことになります。

このあたりを次回お話しできれば思います。また来年もどうぞよろしくお願いいたします!

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