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自分の家を地域の交流拠点に。“未来へ続く幸せのつくり方”とは?


【広瀬 耕さんの場合-第4話】

Q.見知らぬ土地に一人、不安もあったと思うのですが、最初はどうやって地域の人とつながっていったのですか?

(広瀬さん)萩市には各地域に移住サポーターという人たちが居るんですが、三見(さんみ)の担当をしている方に「地域の交流拠点を作ろうと思ってます」とご挨拶したら、いろいろと教えてくれて、家の掃除をしている時もちょいちょい見に来てくれるようになりました。

あと、三見公民館に居た市の職員の方がいろんな人につないで下さいました。ぼくがいきなり行って・・・というのは本来ならすごく時間がかかるし大変だけど、そういうパイプ役になってくれる方がいたからこそ、早い段階でいろんな人たちに出会うことができたと思います。

一人キーパーソンを捕まえてしまえば、キーパーソンとキーパーソンはつながっているので、さらに機会は広がります。
せっかくの出会いを大切にして、「この人はどんな人かなぁ」と観察してつながりを広げていくようにしています。

Q.ご近所とはどのようにしてコミュニケーションを取りましたか?

(広瀬さん)この辺りの方にはやっぱり「これからちょっと改修で音がしますので、ご迷惑をおかけします」という感じでまずご挨拶をしました。
すると思っていたよりオープンな方もいっぱい居て、作業してたら家の前を通り掛かった人が逆に声をかけてくれたりとか…。
そういう中でだんだんと「怪しい者ではないです」ということが伝えらられたのかなぁと(笑)。

あとは、無駄話をするのが大事かなって思います。話しかけやすい人も、そうでない人も、多少無理やりかなと思っても。一見、無駄に見えるような会話でも何かはちょっとずつ変わってくから。

おじいちゃんおばあちゃんだったらすごく楽に話せるから、気負わなくていいというか。いい意味で適当に話ができますね。
たとえば「天気いいですね」とかふつう若者同士じゃしないような会話。
そういうのでも、いっぱい言うしかないですね。そうやって話しかけていくうちに、だんだんと話しかけられやすくなっていくのかなって思います。

改修した家と同じように、まずは壁を取り払ってオープンマインドで接する広瀬さん。
自分から話しかけていくうちに、だんだんと話しかけられやすくなるのだという。


そうして三見の人たちとの関係を新たに構築していった広瀬さんは、居間を取り壊して作った自分の家の一番大きなスペースを、古民家の“古”、三見の“三”から取って『古三堂(こさんどう)』と名付け、地域の交流拠点とすることにした。

仕上げの障子張りを地域の人と一緒に。これから身近で生活する人たちだからこそ、
むしろ助けてもらって生活をスタートさせることは、案外いいものなのかもしれない。

古三堂のオープニングイベントには地域の人が駆けつけ、テープカットならぬ異例の「障子張り」で一緒に完成を祝った。

さらに毎週火曜日にはおしゃべりできる自由なカフェとして開放したり、この家から発掘したものやご近所から持ち寄られた「もったいないもの」をフリーマケットで販売したり、その他ワークショップやプチコンサートなども開催している。

広瀬さんの地域おこし協力隊としての任期は3年だが、高齢化と過疎化の進む三見で地域の課題を改善するためのサービスを今後も提供していきたいと考えている。そのための彼の活動は、すでに始まっているのだ。

毎週火曜日に「みんなのティータイム」ということで気ままに集えるカフェをオープン。
右上の写真はフリマで販売している食器類。ご近所から持ち寄られることも多いそうだ。


これから30代を迎えようという若者が、ここまでの考えを持って、行動も伴っていることに驚くと共に、自分がとても幼稚に思えてくる。

“大人になったら家や車を買って、会社との往来をして時々家族サービス、時々自分の時間。それが叶えば一通り幸せ”。

昭和生まれの筆者は、漠然とそういう価値観の中で育ってきた気がする。
いま考えると経済成長を後ろ盾にしただけの、個人的で浅はかな理想だともいえる。
個々がそれを追求しすぎた結果、自分たちも含め無縁社会であったり、置き去りになる人が増えたりという弊害も生み出してしまったのではないだろうか。

仕事が早く終わったからと立ち寄ってくれた市街地の人、イベントで得意のビオラを
披露してくれた海外からの移住者、薪が必要でしょうからと持ってきてくれた近所の人、
すべて世代も性別も国籍も越えて「自分」とつながる確かな存在だ。

20世紀の古い価値観では、21世紀の未来に続く幸せは見つけられない。

いや、むしろ何もかも便利になる前、昔の人は当然のように知っていて大切にしていたものが、ここ古三堂を拠点に戻りつつあるのかもしれない。

ひとつひとつ、手作りで実感を持って広げていく広瀬さんが、それを教えてくれた気がした。


売主さんとの“約束”

まだ家の購入前、交渉成立の条件に「家と土地を大切にする」ということと、「ご近所さんも大切にする」というものがあったそうだ。
親御さんが亡くなって、住む人が居なくなっても売主さんにとっては大切な故郷。家だけでなく、周囲も含めて故郷なのだ。
こんな広瀬さんだからこそ、売主さんも安心して譲る気持ちになれたのだと思う。

先日も広瀬さんがちょうど留守の際に立ち寄られたという売主さんから「きれいにしてくれてありがとう」と電話があったそうだ。
外から見てもわかるほど綺麗に、大切にされている家をガラス越しに覗き込み、ほっとして帰路につく売主さんの姿が目に浮かんだ。

古民家に住みながら愛情をかけて少しずつ手を入れる広瀬さん。
彼に出会ったことで、7年間放置されていた空き家が息を吹き返し、再び輝きを取り戻した。


広瀬さんにとっての「ちょうどよい家」とは、
自分だけが心地のいい空間ではなく、いろんな人が関わって幸せをシェアできる家だったのだ・・・!

彼のライフステージの変化に合わせ、この家もまだまだ進化するにちがいない。若き広瀬さんの挑戦を、これからも心から応援したい。

キッチンの窓から見えるのは、地域の人や遠くから彼の噂を聞いて訪ねて来た人たち。
ここにいつか彼の新しい家族も加わるのだろう。
窓の向こうに何を見たいか・・・! 想像し作り出すのは自分次第なのだ。

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