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古民家は生きている

子供の頃では当たり前だった風景や物が、

歳を重ねるごとに“懐かしい”ものに変わっていく。

その感情をノスタルジーという。


わたしは古民家に出会うたびにノスタルジーを感じる。

たとえそれが、自分が生まれる遥か以前からそこにあったとしてもだ。

古民家は、いわば樹齢の長い大樹のようなものだ。

人の成長や、時代の移り変わりを見つめながら

いっしょに生きてきた私たちの仲間なのだ。


だからといって古ければ何でもいいのかというと、そうではない。

かつてそこにあった生活の息づかい、

生き生きとした姿に思いを馳せられた時、

初めて感動が生まれるのだ。


家なのか、故郷なのか?


英語で家を表現する時、二つの言葉がある。

建物を意味する“house”と、故郷や戻るという意味もある“home”だ。

私はきっと、心のどこかで古民家に“home”を感じているのだろう。


いま日本の空き家率が過去最大になっていることをご存知だろうか。

住む人を無くし、「放置された建物」となってしまった家の姿は

とても悲しい…。 日本は、「故郷」を失いつつあるのだ。


人々の生活の中にあって、

家が生きていてこそ古民家の良さがある。

私は『古民家は生きている』の取材を通して

人が家と出会い、あたらしい息を吹き込み、そこで暮らす。

そんな人生の1シーンを追いかけてみたいと思う。

そうして「素顔の古民家暮らし」をレポートすることで、

寂しく新しい主を待つ空き家を、少しでも減らせたらいい

そんな風に思っている。

(2022年弥生 さえぐさはなえ)