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【ショートストーリー】海外移住3年目の一時帰国

去年の一時帰国と同じつもりで
ちょっと帰りたくなって,
軽い気持ちで決めた一時帰国だったが,
帰国前はかなり憂鬱だった。

もう私は日本にいないのが当たり前の存在。
帰ると言っても家族も友達も別に大騒ぎしないし,
歓迎されていないようにも思えたし…。

でも実家に寝泊まりして,
普通に買い物に行ったり,
図書館に行ったり,
不要な本を古本屋に売りに行ったり,
免許の書き換えに行ったりして,
懐かしい日本の生活もたまにはいいなと感じた。

住民登録もしていなくて,
居住地は外国だけど,
国籍は日本という中途半端な存在。
それでも祖国は日本なのだと感じる。

やっぱりここは祖国であり,
落ち着ける場所。
長くいると苦しくなるけれど,
時々戻ってきてほっとできる場所。

でも日本にいなくても降りかかる
相続やお墓の問題,
家やお金のことが,
一気に私を現実に引き戻す。

それでも私が日本にいるのは腰かけ状態。
もう生活の拠点は外国なのだから。

懐かしい童話創作教室に
1日参加させてもらっても,
それはもうゲスト出演。
それでも今後もずっと
書く人であり続けることを再認識させてくれる
貴重な恩師と仲間たち。

帰国前の憂鬱よりは,
友人たちは会えば
喜んでくれているようにも見えた。
でもそれもあと何回か?
人間は目の前からいなくなった人を
忘れていく生き物。

世界は変わっていく。
変化を嘆いてはいけないんだ。
これは,受け入れなくてはいけない現実。

日常を離れると,やるべきことが見えてくる。
人生に必要なものと,そうでないものもわかった。
時には客観的に人生を見るのもいい。

外国に帰る日の朝,
もうベッドカバーで覆われた自室のベッドの上で,
出発までの時間をやり過ごしていた。
父に呼ばれて階下に降りて
犬の頭をなでて居間を出ようとした時,
涙が出て困った。

人が出て行く時,
犬はいつもものすごく吠えるのに,
その日はおとなしく椅子の下で伏せていた。
それがとても不気味だった。
なんだかちょっと怖かった。

実家の犬に会えたのは,それが最後だった。

©2023 alice hanasaki

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