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【ショートストーリー】高校時代

友達とソファーに並んで座って,
喋るでもなく何もせず
日が暮れるのをただ待っていた。
夢はあるのに,
まだ出発する時ではないと思っていた。

同級生が彼氏と制服で
自転車に二人乗りしている横を,
大学生の彼氏の車の
助手席に座って通り過ぎる。
そんなことで友達より大人だと思っていた。
誰が早く大人に近づくか,
そんなことばかりに気を取られていた。

見えない何かを求めて,
常に焦っていた。
楽しいだけではいけないような気がしていた。
ただ”充実”という言葉を実感したがっていた。
常に何かを求めていた。
だけどそれが何であるかは
わからないでいた。

失恋とか,
片思いを恐れていたけれど,
愛することは怖くなかった。
まっすぐに人を愛すことを,
あの頃の私は知っていた。

大人に近づいていく,
自分の足音にいつも耳を傾けていた。
着実に成長している証を欲しがっていた。

初めての彼氏と別れる時,
「今までありがとう」
なんて涙声で言った。
…実は演技だった。
いかにかっこよく別れのシーンを演じるか
ばかり考えていた。
後悔してる。
別れても嫌われないようにした,
自分の態度が許せない。
ありがとうでも何でもない。
悪いのはあいつだ。
私の友達に手を出すなんてサイテーだ。
十発殴っても気がおさまらない。
あんな奴コテンパンにしておくんだった。

いつも眠くなった午後の授業。
澄み渡る空を眺めて,
うわの空でいつも座っていた。

私のことを好きだと言ってくれた男の子。
私も好きには違いなかった。
だけど彼の気持ちを受け入れようとはしなかった。
それなのに彼がかわいい女の子と仲よくしてた時,
やきもちを焼いた。

偶然一緒になった帰り道,
心が温かくなった。
電話して笑い転げて,
やっぱり好きなのかもって何度か思った。
それでも私は自分の気持ちを否定した。
私たちは仲がよくて,
私はそれだけでよかった。

十年ぶりのクラス会で
彼の三歳の息子になつかれた。
ずっと抱っこしていた私の横で,
貫禄ある彼のパパぶりがおかしい。
「おまえも,このお姉ちゃん好きか?」
笑いながら私を見ずに言う。
(おまえ“も”って何よ)
遠くで談笑する彼の奥さんの横顔を,
なぜか一瞬盗み見る。

煙草にいかに慣れた手つきで火をつけるか,
部屋でいつも練習していた。

制服のポケットには,
いつも地主神社の縁結びのお守りを忍ばせていた。

好きでもない男の子の
バイクの後ろに乗せてもらうため,
深夜に家を抜け出した。

…ずっと楽しいだけじゃいけないと感じていた。

©2023 alice hanasaki

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