明け方と追憶、コーヒーの苦みはいつの日か…。

AM4:14。ほわりと灯った間接照明だけが、室内を飴色に照らす。季節が季節なら空が白けてきてもおかしくないこの時間、今日はまだ夜の帳は降りたまま。こんな時間になっても未だ眠れず、くらげみたいにふわふわと長い夜を彷徨ってる。

年始早々大変な目にあい自宅療養中で全く身体が疲れてないせいか、瞼を閉じても遠い小さな記憶が頭に浮かぶだけ。

まだ身体も心も幼かった頃、家族で訪れた川辺で初めてカワセミという鳥をみたこと、初めて清流に連れていってもらい川遊びをしたこと。普段なら中々思い出すことのない遠い記憶が、眠れない夜に限って記憶の奥底から沸き立ってくる。

こんな時、物悲しい気持ちになるのは何故だろう。不思議でしょうがない。

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「あれはカワセミという鳥なんだ。」

大小様々な大きさの石や、木々を抜けた先にある清流で父が教えてくれた。

道中までの時間も長く、子供だった私とほとんど同じくらいの大きさの石を乗り越えていく道は決して楽なんてものじゃなかった。早く帰りたい…ずっとそう思ってた。

でも、カワセミをみた瞬間そんな気持ちは空の彼方に消えた。大きな清流の周りには木々が生い茂り、少しだけ川面から顔を出した岩肌に、明らかに人工的なものとしか思えないほど美しい青い色をした鳥が止まってる。言葉にならないほどの衝撃を受けた。

今思い返せば、人も含めて生き物を美しいと思ったのはあの時が初めてだったのかもしれない。

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〘子供の頃の貴重な一ページの思い出が、後の人生を彩る貴重な素材になる〙と昔読んだ何かの本に書いてあった。

だとしたら、あの日家族でカワセミをみたあの瞬間は、今の私を形どる大切な思い出なんだと思う。でも、あれから時は経ち自立して両親とは離れて住んでることもあり、家族で過ごす時間は極端に減った。会うとしたら、お盆やお正月などイベント事が重なるときだけになり、そしてコロナ禍が更に私達を遠ざけた。

今年のお正月のように、家族や親戚が一堂に会したのは何年ぶりなんだろう。ほんとに久しぶりだった。心から笑い、安心感に包まれるあの数日の思い出は当分の間、頭の中を占める気がする。

コロナは暗い世をもたらしたけど、同時に沢山のことを教えてくれた。思い付くことはいろいろあるけど一番は、面と向かって大切な人と会う尊さや喜びだと思う。SNSやプラットフォームなどが普及した今の世の中で、人間関係を増やそうと思えば、いくらでも繋がりを増やせるようになった。家族や友人、恋人など人によって形は違えど、間接的にだがいつでもどこでも大切な人に会えるようにもなった。もう今は孤独になれない、なることが出来ない世界だと思う。でも、そんな世界は実際無機質なものでコロナ禍が作り出した〘大切な人に会いたくても会えない〙という状況におかれて、初めて物理的に会えないことの辛さやもどかしさを知った人も多い気がする。事実、私もその一人。

緊急事態宣言中ZOOMで画面越しに話した時と、実際にあって面と向かって話す時とでは大きな差があるんだと思わずにはいられなかった。会話をしているうちに生まれる、互いの空気感や体温でさえ尊い。

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今明け方にこの記事を書きながらコーヒーを飲んでたら、そういえば子供の頃初めて口にしたコーヒーが不味すぎて吐き出したことを思い出した。

ケーキ作りが趣味だった母は、無類のコーヒー好きでもありよく飲んでた。テーブルに置かれた湯気がゆらゆら昇るカップをみた私は、母と同じものを飲んでみたくて口に入れた途端、吐き出した。母はテーブルを拭きながら、「あんたにはまだ早いよ。でも一度口に入れたものと出されたものは何があっても、吐き出したら駄目。わかった?」と肩を擦られながら言われた。

ほんとに両親にはいろんなことを教えて貰った。まだ正月気分が抜けていないのか、こんな明け方に家族のことばかり考えてしまう自分がいる。

いつか私も子供を持ったらいろいろと教えてあげたい。私が両親から教わったように。

ふつうにいけば、私より先に両親は旅立つ訳だからそれまでに少しでも人として近づきたい。

そう思った。

部屋の中では、間接照明がほわりと灯るだけで外の暗さは変わらない。でもサイドテーブルに置かれたコーヒーは、湯気は消え人肌以下の温度になってしまった。一口、また一口と飲んで思う。

いつからなんだろう…?

子供の頃あれだけ不味くて吐き出したコーヒーが今は美味しいと思えるようになった。

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