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『アークンコールが鳴り止まない!』

『ちょっと疲れたなぁ。このベンチで休んでいこか?』

妻にそう声をかけると、
2歳になる長男のベビーカーを
押していた手を止め

『せやね、ちょっと休もう』
と返してくれた。

私たちは
ベンチに座り
飲み物を飲んでくつろいでいた。


私は
なんとはなしに
ベンチから1メートル離れた場所に
ゴミが落ちていたのを見つけた。


瞬間、
緑の服を着た妖精が
視界に入ったかと思うと
落ちていたゴミをサッと拾い
ローラースケートで駆け抜けていった。

ここは、
皆さん大好きネズミの館。
東京ディズニーランド!
(ディズニーランドをネズミの館というのはアンタだけよ!)



私たち夫婦は
初のディズニーランドに
完全に浮かれていた。


『さすがはディズニーランドやなぁ。ちょっとのゴミが落ちてるのも見逃せへん。社員教育が行き届いてるとは聞いていたけどホンマなんやなぁ〜』


私は『夢の国』に感激していた。


2歳の子どもを連れていた
私たちは
ジェットコースター等の
スリルのある乗り物ではなく
観覧車や
ミッキーマウスの家を見たり
パレードで楽しんでいた。


音楽やアトラクション。
キャラクターのパフォーマンスに
ワクワクしていた。


そんな中で
唯一私たちが乗ったのが
「イッツ・ア・スモールワールド」
だった。


『世界一幸せな船旅』
とも言われる
「イッツ・ア・スモールワールド」は
夢の国にふさわしい乗り物だ。
ディズニー映画の世界観を
4人乗りのイカダに乗って楽しめる。


イカダには先頭に
長男を膝の上に抱いた私が座り
後ろに妻。
その後ろに
20代のカップルの組み合わせ。


『ほら、あそこにミッキーちゃんいるよ!あっ⁉️あそこにはグーフィーや!』
と長男に興奮して説明する私。


その時、
私の胸にある考えが
沸々と湧いてきた。

『やっちゃえ!アークン』



私の心の中の
リトル永ちゃんが
昔の日産のCMのように
シャウトした。


妻に一発かませ!と
永ちゃんに言われたら
もうやるしかない。


意を決して
イカダから手を外に出して
おもむろに右手を水面に突っこんだ。


そして

『熱〜、さすがはディズニーランドや!水やなくて熱湯や!これは、ひょっとしたら温泉ちゃうか〜』

妻に聞こえるように
さりげなく言ってみた。


すると、

ポチャン♪


と音がしたかと思ったら
後ろのカップルの男性が


『なんだよ❗️水じゃねえかよ〜』


と叫び、
東京弁が聞こえてきた。


どうやら
私の言葉に引っかかり
水の中に手を入れたようだ。


すかさず妻が

『アホなこと言わんといて、恥ずかしいやないの!』



とツッコんできた。
思わず爆笑する私。


初めての関東遠征で
気後れしそうなところを
大阪代表として
一矢報いた気分になった。


その日、
大阪に帰る新幹線の中で
ロッキーのテーマが脳内に流れて
『ロッキーコール』のように
鳴り止まない
『アークンコール』を背にうけて
ガッツポーズをする私の映像が
ずっと写真のように
浮かんでいたのだった。
(完)


最後まで読んでいただき
ありがとうございました。





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