見出し画像

親の因果はどこへゆく?『水は海に向かって流れる』

離婚に関する統計はあっても、浮気となると、公的機関の調査は見当たらず。そんな中、調査規模やその主体から信頼できそうなのが、相模ゴム工業株式会社「ニッポンのセックス2018」。それによれば、20〜40代の男性の約3割が結婚相手、交際相手以外とセックスをしている、という結果でした。

不倫を許す、許さないは別にして、W不倫で駆け落ちという、秋ドラマ『恋する母たち』のような展開になれば、さすがに大ごと。夫婦関係はもとより、子供たちにも、心理的・経済的な影響は計り知れないでしょう。

今年完結した田島列島さんのマンガ『水は海に向かって流れる』は、まさにそのW不倫で駆け落ちした男女の、それぞれの子供たちが偶然出会い、ひとつ屋根の下で暮らし始める物語。

高校への進学を機に、おじさんの家に居候することになった直達。案内された家の住人は26歳OLの榊さんと、女装の占い師、メガネの大学教授といずれも曲者揃いの様子。男女5人での一つ屋根の下、奇妙な共同生活が始まったのだが、直達と榊さんとの間には思いもよらぬ因縁が……。

設定はシリアスながら、ユーモアを交えた軽妙な会話劇で、どんどん話に引き込まれていきます。血のつながらない住人たちによる、熱すぎず、冷たすぎず、絶妙な距離感とバランス感覚は、作者と読者に間のそれでもあり。今の日本だからこそ生まれてきた作品という気がします。

「手塚治虫文化賞新生賞」受賞、「THE BEST MANGA 2021 このマンガを読め!」2位、『このマンガがすごい!2021』オトコ編4位、「マンガ大賞2020」5位、などマンガ賞・ランキングでも高く評価されているようです。

駆け落ちした母親が許せず、恋愛しないと決めて10年を過ごしていた榊さん。自ら閉じ込めてきた“怒り”が、直達の助けもあって解放された時、感情という“水の流れ”は再び動き出し、海へと向かってゆく。榊さんや直達だけでなく、読んでいるこちらも救われた気になった傑作(全3巻)。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?