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羽海野チカ先生と『エースをねらえ!』

『ハチミツとクローバー』や『3月のライオン』で知られる漫画家の羽海野チカ先生。子供の頃から、山本鈴美香先生の『エースをねらえ!』を熟読していた自分には、何となく同じ匂いを感じていて。それが間違っていなかったとわかったのは、羽海野先生のブログを読んだ時。

羽海野先生も『エースをねらえ!』を子供の頃から読んでいて、『ハチクロ』単行本のお金が入った時、一番最初に買ったのが『エースをねらえ!』の文庫版だったそうです。ところがそのタイミングで連載していた『CUTiE Comic』休刊の連絡が来て…。

どうしていいかわからなくなって…「エースをねらえ!」の続きを読みはじめたのですが、読み進んで行くうちに、「ここまでだ…と思った時にもう一歩ねばれ!」という宗方コーチの言葉があり、子供の頃から何度も繰り返し読んで来たセリフにやっぱりもう一度私は泣いて、「なんとかして最後まで描ける道をさがそう」と思いました。

その後、紆余曲折を経て『ハチクロ』は全10巻で完結。先生は人気漫画家へ。続いて連載中の『3月のライオン』は、マンガ大賞2011大賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞など次々と漫画賞を受賞。もし、『エースをねらえ!』がなかったら、『ハチクロ』も『3月のライオン』もなかったかも。

名門テニス部に入部した岡ひろみが、宗方コーチのシゴキや部員のいじめにもめげず、トッププレイヤーに成長していく物語。スポ根漫画の金字塔ではありますが、恋愛や人生論、時にコミカルな要素も。宗方コーチの死後の第二部では、少女マンガの域を超えて、哲学・宗教的ですらあります。

名言の多さも特徴で、有名なのは主人公の岡ひろみが、先輩の藤堂貴之と恋に落ちたことを察した宗方コーチが、藤堂を呼び出して言うセリフ「女の成長を妨げるような愛し方はするな」。競技に集中して欲しいところを、敢えて藤堂という人間を信じて、自覚に任せたというわけです。

宗方コーチの死に打ちのめされ、テニスから遠ざかっていた岡。宗方コーチの親友の桂コーチがその遺志を受け継ぎ、岡を再び復帰させるために、周囲を説得する時に言った言葉なども胸熱です。

大した苦しみもないかわりに、大した喜びもなく。大した努力もしないかわりに、大した成果もえられず。ぬるま湯につかったように生きて、死んでゆく人間が多い中で、慟哭を味わえる人間は幸福なのだと!

「奇跡への挑戦だ」とあいつは口では言ったが 岡の成功を信じていた。岡を信じ、俺を信じていた。失敗はあいつへの裏切りだった…。無論、他に約束を知る者はいない。失敗しても誰も俺を責めはしない。が、たとえこの世の誰が知らなくとも、俺が、この俺が知っている!

一番好きなシーン。酒豪の桂コーチでしたが、自分が完全復活するまで断酒していると知った岡。やっと手ごたえを感じた頃、ある飲み会があり、桂コーチが杯を受けているのを見て、記念にその杯をもらおうとした岡でした、飲んでいたのは水だとわかり…。

最終巻。完全復活した岡の海外試合の壮行会。桂コーチは岡を呼んで、本物のお酒を自分の杯に注がせます。震える手でお酒を注ぐ岡。笑顔で「旨いっ!」と飲み干す桂コーチ。泣き崩れる岡。「これからだ、これからだぞぞ、岡」。

「岡、エースをねらえ!」のタイトル回収シーンと共に、毎回号泣です。アニメや実写化もありますが、圧倒的に原作を推奨します。


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