
'95 till Infinity 149
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【 第8章 - ③: Story of His Life 006 】
その日は風が強くてさ、吹き上げる砂ぼこりに目を細めて押し寄せる波をただ眺めてた。
まだ日がやっと昇りだすって時間帯でさ、空は濃いグレーでそれよりもちょっと薄いくらいの隆々とした雲がゆっくり流れてたよ。
白い波の向こうには波に揺られる何人かのサーファーも見えてさ、俺は飽きもしないでまた同じことを考えてたんだ。
なんでエマは死んじまったのかってさ。
もうこれはさ、なんっていうのかな、俺の頭の中から消えることのないものなんだ。そりゃ仕事中でバタバタしてる時や何かにすごい集中してる時なんかはそんなことは考えないよ。けど、それが終わって心にちょっとでも余裕ができるとすぐにその隙間に入り込んでくるんだ。
俺がジャンキーで自分で考えることをしなかった時代はエマが死んだってことを、エマのすすり泣く声やエマの親父さんの怒声が鷲掴みにしたクソを俺の顔に塗りつけるように告げるんだ。
そして、やっと俺が自分の頭で考えることができるようになったら、今度は自分の頭の中でずっと考えるようになってた。エマの死という事実のなぜって部分をね。
その時も俺は考えてた。
なんでエマは死んだのかってね。
俺が悪いのか?
ヘロインが悪いのか?
何が原因だったんだってね。
そんなことを考えながら、紫やオレンジに色を変えていく空を眺めていて俺は思ったんだ。
俺やヘロインみたいなこの世に存在する価値もないような物に終わらせられちまうような人生ってあまりにも悲しすぎやしないかってね。
ねぇ、よくいうでしょ?
誰々に出会って私の人生は変わった。
何に出会って私の人生は変わったって。
それってさ、よく考えると俺は違うと思うんだよね。
だってさ、出会う瞬間まで知りもしなかった、知ってても気にもしなかったような人間や物で人1人の人生が変わるなんてことはないんだよ。
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