推し本#2 鴻巣友季子 『翻訳教室 はじめの一歩』筑摩書房
お久しぶりの推し本投稿。
今回は鴻巣友季子氏の『翻訳教室 はじめの一歩』筑摩書房 をご紹介します。
ちなみに私は発売当日に紀伊國屋書店へこの本を目当てに駆け込みました笑
「翻訳」への興味の扉
今回この本を取り上げるにあたって、私が何故「翻訳」に興味を持ったのかを記しておかなければいけません。
中学高校大学と、これまでの学生生活でずば抜けて英語ができる人間ではありませんでした。むしろ英語は苦手な科目でした。
今まで教室という空間で教科書と向き合い、試験のために単語帳を何周もし、「受験のための英語」を私は取り組んできました。
私はこの英語教育を好きになれませんでした。
テストの点数が上がらず、当時の高校のクラスでいちばんと言っていいほど英語ができませんでした。しかし、英語が致命的という欠点を抱えながらも滑り止めで受けた大学に合格し、進学することとなりました。
大学に入ってからも、必修の英語の講義はどうしても好きになれませんでした。テキストを読んで英訳。
毎週行われる単語テスト。
高校の時の、あの、どんよりとした感情が再び湧き起こっていました。
しかし大学3年の時、Billie Eilish を好きになって毎日のように曲を聴き漁るようになりました。これが、私の翻訳への興味の扉が開いた瞬間です。
「この曲の歌詞がすぐにわかるようになればいいな」
「彼女の気持ちを少しでも感じたい」
このように思うようになったことから、洋楽から英語を学ぼうと決意します。
その後もお気に入りの洋楽が増え続け、Billie Eilishに負けないほど好きなアーティストが新たにできました。(今度、新しいnoteで紹介します!)
私は洋楽→英語学習→翻訳という流れで興味を持ったのです。
長い前置きはここまでにして、さっそく本書について記していきます。
やっぱり大切なことは「想像力」なんだ
何をするにしても私たちに必要なことは、「想像力」なんだと改めて思わせられました。
推し本#1でアラン『幸福論』(岩波文庫)を紹介しましたが、そのnoteに繋がる話でもあるなと感じました。推し本#1も良ければご覧ください!
人間ってどうしても自分の視界から見えるものしか信じないし、その範囲の中で物事を決定していきます。
鴻巣氏は翻訳で大切なことにおいて「想像力の枠から出ようとすること」と述べていました。(本書p.12)
翻訳は海外の作家の文章を日本語に訳すこと。言語が違うというのは、ニュアンスや感情、生活背景が違うということだと思うのです。
すべてを汲み取ることができなくても、汲み取ろうとする努力は必要だと思うのです。作者の気持ちにどれだけ寄り添えるか、これを自分の想像力の枠を広げることで達成していくことだと感じました。
本書の中で「いろいろな『感情』を経験するということ」(本書p.14)と表現されていて、非常に自分の中で納得することができました。
やっぱり自分の身体で経験したことって時が経っても色褪せないし、自分の引き出しを増やしていく材料なんだなと思いました。
「読む」力を育てる
本書で、鴻巣氏が小学6年生の子どもたちと翻訳に挑戦する記述があります。12歳の少年少女たちは辞書を使い単語の意味を調べ、オリジナルの翻訳を完成させるという流れです。
この部分を読んで、単語の意味を読み解いていく様子や小学生ならではの視点などが散りばめられていて、非常に読んでいて面白かったです。
自分が12歳の時にこんな発想ができたかな。と思い返す時間にもなりました。
この部分で鴻巣氏が強調して述べていたのは、能動的に読むことの大切さでした。
日本の翻訳文化に触れつつ、「より原文に忠実で的確な翻訳を目指すのであれば、むしろ能動的に読む必要があるということ」(本書p.95)と鴻巣氏が述べるように、
私は学校の英語の授業で習う英文和訳のような翻訳になってしまうのは、物語を理解するにあたって非常にもったいないと思いました。
もっとフリーに自分だけの訳文があってもいいのではないか。言葉の捉え方は人それぞれで、型に当てはめるだけでは、隠された情報を取りこぼしてしまうのではと考えさせられました。
近頃の日本での英語教育では「話せる英語」を目指しつつ変化しています。
「読む・書く・聴く・話す」の中で、「読む」という行為が蔑ろになっている部分もあるのではないのでしょうか。
鴻巣氏は、「語学学習の核心にあるのは、やはり『読む』行為」(本書p.209)と述べています。
本を読むことでいろんなことを吸収してきた私にとって、非常に刺さる言葉でした。私もそのように信じています。
最後に
この本をきっかけにもっと多くの人が、「読む」ことの大切さと自分の想像力を広げていくことに気づいて欲しいなと切に思います。
ぜひ本書を読んでみてくださいね。
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