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マーケターが最低限知っておくべきアカウンティングとファイナンスのスキル

・想定する読者
マーケターやIT関連企業の営業マンだけれどもアカウンティングやファイナンスはよくわからないという方
・本記事を読むメリット
アプリマーケターが何故、アカウンティングとファイナンスのスキルを身につけるべきかを具体的な実務例を通じて学べます。また、アカウンティングやファイナンス初心者の方に分かりやすく記事を書いているので、とっつきやすいです。

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ありがたいことに最近、マーケターとしてプロダクトの売上や利益貢献を行うだけでなく、様々な周辺ビジネスにおいてアドバイスを求められる機会が増えました。こんな私でよければなんぼでも貢献します!ということで色々な仕事してるのですが、その一つに所謂、代理店ビジネスにおける営業進捗の管理や事業PLの管理について教えてほしいというニーズが多かったのでこのような記事を書くことにしました。

ですので、今回の記事の前提はわかりやすくするために「もし、あなたがこの代理店の営業部隊の責任者だったら代理店のビジネスを円滑に進めるためには、どのようなことに注意すべきか」ということアカウンティングやファイナンスの側面から紐解いていきます。

また、今回はニーズがたまたまあったので代理店の営業部隊の責任者という設定にしましたが、これは事業PLに責任を持つ人であればどんな職責の方でも当てはまるので、ソシャゲの事業PLに責任を負っている人やマーケティングの部署を統括する人も自分ごと化して記事を読みことが出来ます。

・何故、マーケターはアカウンティングやファイナンスを知る必要があるのか

まず、そもそもアカウンティングとファイナンスってなんや?という話ですが、定義としては以下です。


アカウンティング

広義の意味で言う「会計」に当たります。会計には各ステークホルダーに提出することが求められる財務会計と事業を推進するために用いられる管理会計(マネジメント会計)があります。そして会計とは、売上や利益をどう計算するかのルールでありビジネスパーソン同士が使う共通言語です。ですので、再現性を持って売上や利益に貢献することが使命のマーケターは必須で身につける必要があります。会計リテラシー無いまま、マーケターを名乗るということは売上を上げるためのルールを知らないのに、売上を上げれます!と豪語しているようなものです。まぁ詐欺師ですね。


コーポレートファイナンス

株主資本もっとわかりやすく言うと企業や事業の価値を最大化するために、どのように資金調達して、何に投資すればいいかを検討し実行する活動の総称です。株主資本がわからない方はまず簿記の勉強をおすすめします。

会社は誰のもの?会社は何のために存在するの?という議論し始めるときりがないので端折りますが興味あれば、本記事のまとめにオススメ書籍記載しますので、読んでみてください。

まとめると、アカウンティングとコーポレート・ファイナンスが何故、マーケターに必要かと言うと、まずマーケターとは再現性を持って売上・利益に貢献することが使命です。ですので、マーケターは売上と利益がどのようなビジネス上のルールに従って計上されるのかを知る必要があります。それを知った上で、どのような投資判断をすることで自分が携わる事業の価値を最大化するかを判断できる必要があります。ですので、マーケターにはアカウンティングとコーポレート・ファイナンスのスキルがベースとして必要なわけです。

・ケーススタディ「もし、私が代理店の責任者だったらどうするか」

では、具体的なケースの設定をしてみます。まず社員は営業マン(直接部門)10人と営業マン以外(間接部門)30人の合計40人としてみます。事業としては広告代理店業を営んでいる前提にしますので、TVCMでもWEB広告でも交通広告でも何でもいいのですが、何かを仕入れて付加価値を上乗せして、クライアントに売るというビジネスです。ですので、先に仕入れが発生して、クライアントに売るので、その時間差の分だけキャッシュフローが荒れやすいビジネスモデルです。ですので、小さな代理店の場合、買掛金と売掛金の支払いサイトの設定は注意深くやる必要があります。キャッシュフローが安定するまでは売掛金の支払いサイトは最悪30日、出来れば即金や前受金がベターです。買掛金は30日やダメ元で60日とかにできると安心です。

ちょっと話それちゃいましたが、この組織で月平均で売上が2億円で粗利益が現実的なところで15%のビジネスをしていたとしましょう。また、管理会計上の人月費用を80万円/人だとします。また、簡単のために本事業は人件費以外の固定費は抱えていない前提とします。そうすると、以下のような簡易的な事業PL(年間)ができます。

売上:24億円
 売上原価:20.4億円
売上総利益:3.6億円
 人件費:3.84億円
営業利益:-2,400万円

となり、営業利益ベースで赤字です。この状態が慢性的に続くのであれば、赤字不採算部門なのでクローズすることになります。この状態から営業部門の責任者であれば、どのようなテコ入れをするかを考えます。

・まず、現状のPLと損益分岐点、固定費/変動費をみてみよう

まず、現状のままの利益率、固定費を維持するのであれば、損益分岐点は何円なのか?ということです。

今回の場合の損益分岐点Xは、0.15X=3,200万円なのでX=2.13億円です。毎月2.13億円の売上を上げれば、この組織は維持することが出来ます。

そう、維持です。維持ってことは利益を1円も生んでいません。

感覚的な話ですが、もしあなたがこの代理店含めたグループ会社の株を持っている株主だったとします。その株主総会で「代理店部門の売上は2.13億円で営業利益は0円でした。」と言われたら、どう思いますでしょうか。正直「代理店事業やんなくてよくね」となりませんか?

何故、そう思うのかと言うと、株主として何を期待するかにも依りますが、株を買うというリスクを引き受ける変わりにリターン=キャッシュ(或いはそれに準ずる見返り)がほしいのではないでしょうか。であれば、売上2.13億円営業利益0円の事業は利益を生み出していません。ということは、営業利益から算出される税引き後純利益が源泉となって積み上がる株主資本(厳密に言うと、利益剰余金)に対して、この事業は全く貢献していません。だから、「代理店事業やんなくてよくね」となるわけです。

ですので、事業を維持するだけではコーポレート・ファイナンス観点では意味がなく、ステークホルダーから期待される期待値=利回りを突破して、初めて事業をやる意味があると認められるわけです。

・会社から期待されているリターンレートを勝手に設定しよう

では、そのステークホルダーから期待される期待値=利回りって具体的に何なのさという話です。まず、考えるべき基準はWACCだと思います。WACCとはWeighted Average Cost of Capitalの略称で銀行などの金融機関からの借入や融資にかかるコストと株式調達にかかるコストを加重平均したもの。もっと簡単に言うと、単位金額を調達するために必要なコストを表します。銀行から金利1%でお金借りてるなら、本業でやっているビジネスの利回りは最低でも1%は越えようよという見方です。ビジネスではにおいては、WACC以上の利回りをあげることができれば負債コストと株主資本コストの両方をカバーすることが可能ですが、株主の立場からしたら「え、そんな利回り当たり前やん。だったらAmazonとかAppleとかアルファベットの株買うわ。そっちのが利回り現状良いし」ってなりますよね。

なので、もっと株主目線の積極的な目標設定の仕方としては、グループ会社の平均的な株価収益率(PER)や同業他社でベンチマークしたい企業のROEなどを設定するのは一つの手だとおもいます。借りに複利は働かず、単利という前提で年利15%を代理店業での目標利益率にすることにします。勝手にw

・どこからテコ入れするか?の指針となる感度分析

この代理店ビジネスの利益率が15%と変わらず、固定費も変わらない場合、この利回り15%を達成するためには、

売上:49.6億円
 売上原価:42.16億円
売上総利益:7.44億円
 人件費:3.84億円
営業利益:3.6億円(利回り15%)

つまり、現状の利益率、固定費でステークホルダーの要求に応えるには、現状戦力で売上を今の2倍以上(24億円→49.6億円)にする必要があるということです!「うわーー、絶望やん」となる前に、この章のテーマを思い出しましょう。そう、感度分析です。

つまり、PLの各変数である売上、原価、売上総利益率、人件費のどの変数を増やしたり減らしたりすると目的である営業利益への感度が高いか?という分析です。前回のコチラのnoteでもやりました。アプリの分析も営業目標達成のプロセスも同じということです。

例えば、自分が営業責任者として40人の部隊を見ていて、その一人一人がどのような業務に携わっているかヒアリングしていたところ、明らかに働いていないとか、思ったように営業マンが受注できないことによって慢性的に空いたリソースがあったとします。それが40人中8人いたとしましょう。もし、その8人をグループ会社間の配置転換で異動できて、且つ他の変数が変わらなければ以下のように状況が変化します。

売上:24億円
 売上原価:20.4億円
売上総利益:3.6億円
 人件費:3.07億円
営業利益:5,300万円

はい、黒字転換!それだけ、人を雇う=固定費を抱え続けるということはリスクだということがわかります。

余談ですが現在、コロナウイルスの蔓延で多くのエンタメ、小売が被害を受けています。特に中小企業や自営業の倒産話しもちらほら聞きますが、それが何故かと言うことが、この感度分析で分かるのではないでしょうか?コロナウイルスの影響で全く売上が立たなくなったという企業や特に自営業の飲食店はあると聞きます。そうすると、売上は0で仕入れも0です。ということは粗利益0です。しかし、社員を抱えていると固定費で人件費がキャッシュアウトし続けます。アルバイトであれば流動的に削減できますが、正社員はそうはいきません。やれて一時的な減俸程度でしょう。もし、中小企業の飲食店経営者でキャッシュが潤沢に無かったとしたら、このコロナウイルスの一見で間違いなく倒産になるでしょう。それだけ、固定費というのは事業に大きなインパクトを及ぼします。ですので、固定費はできるだけ変動費化(アウトソース)できるフレキシブルさを持っておく必要があります。

少々余談になりました。次に固定費を削減するのではなく、できるだけ固定費の操業度を上げることの感度分析を行います。実はこれもうすでに以下のようにやっていて、現行の固定費を維持して売上を伸ばす=人数そのままに操業度をあげることで売上のトップラインを伸ばすということです。

売上:49.6億円
 売上原価:42.16億円
売上総利益:7.44億円
 人件費:3.84億円
営業利益:3.6億円(利回り15%)

固定費を多く抱えるビジネスほど、操業度を考える必要があります。つまり、固定費に対する限界利益(貢献利益)貢献の最大化をするということです。限界利益とは売上から変動費(この場合、売上原価)を引いたものが限界利益です。要するに、未稼働人員を生産的に稼働させるということです。それほど、固定費とはPLに重くのしかかります。その具体例を以下が端的に表しておりますので是非、ご一読ください。


或いは、固定費は維持しつつ利益率が15%のところを20%まで引き上げられた場合はどうでしょうか?それが以下です。

売上:24億円
 売上原価:19.2億円
売上総利益:4.8億円
 人件費:3.84億円
営業利益:9,600万円

利益率を5%上げることが出来れば、黒字転換します。しかも、この効果は②で検討した8人を異動させたときよりも営業利益への感度は高いです。もう少し詳しくいうと、利益率5%上げて売上2億円/月を維持できれば、②で異動させた8人は引き続き雇い続けることができ、さらにあと10人の社員(=管理会計上の年間人件費9,600万円)を雇用しても営業損失を出さないということです。つまり、この利益率5%の差が8+10の18人分の雇用に影響することを営業マンは意識する必要があるわけです。それだけ、利益率は大切ということです。利益率とは売上と仕入れ値の差額なので、

・仕入れ値維持して売値上げる
・売値維持して仕入れ値下げる
・仕入れ値下げて売値上げる

しかありません。そんなのムズいよ!というかもしれません。

これって実は些細なことで解決できることもあるんです。例えば、外掛けと内掛けの仕切りを社内でしっかり統一する等です。つまり、売上原価÷0.8=売値なのか売上原価✕1.2=売値なのかはっきりさせるということです。実はこれら言い方として両方とも手数料20%なんです。しかし、内掛けなのか外掛けなのかで利益率は異なります。このあたりの意識を統制するだけでも利益率を上げられるかも知れません。

最後に感度分析を行う際は営業部門(直接部門)や間接部門にヒアリングを行い、具体的にどの変数のコントロールが現実的に可能かヒアリングを行った後に各変数の目標設定を行うことで地に足ついた事業計画が作れるかと思います。

・自分がほしい年収を今の組織で達成するための理論値を算出しよう

何故、こんなこと最後に書くかと言うと、やはり年収と人口の上昇率って一定の相関がある中で、どの先進国よりも真っ先に少子高齢化社会に日本は向かいます。また、過去から現在に目を向けてみると悲しいくらい日本人の所得(≒名目賃金)は伸びていないわけです。1995年からほぼ賃金倍増している欧州米国に対して、日本はまさかのマイナスww

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まして、欧州米国と比較してマーケターのプライオリティが低い日本においてキャリア戦略が描きにくいであったり、それに紐づく年収が上がりにくい等あるのではと感じております。そこで、マーケターが「俺はバリューがあるから年収を上げてくれ!」と言えるためのロジックはこんなのがあるんじゃないかという提案をアカウンティングとコーポレート・ファイナンスの観点から話せればと思います。

まず、年収上げたいなら誰にも出来ないスキルがあればいいじゃん!例えば、デジタルマーケティングとか・ファイナンスとかアカウンティングとかM&Aとかさ!と思いがちですが多分そうではないです。なぜなら、あなたに給与を払う経営者はそんなことはどうでもよくって「あなたはどれだけ利益に貢献したの」しか見ていないし興味もない。部長→執行役員→取締役と上がっていくごとに経営視点=事業PLやBSに責任を負うので必然的に「それ儲かるの」にしか興味が持てなくなるのはなんとなく分かるのではないでしょうか。

大体、会社が計上した粗利益の20%程度は給与に反映できるように設計されています。ということは”自分がほしい年収÷0.2”の粗利益を年間で持ってこれば言える権利はあるということです。例えば、年収1,000万円ほしいのであれば、さきほどの代理店の例でいくと売上高総利益率が15%だったとして、(1,000万円÷0.2)÷0.15=3.3億円の売上(5,000万円の粗利益)を年間で上げれば年収1,000万円はもらえるということです。ただし、これは単独で3.3億円の売上5,000万円の粗利益を生み出せたらの場合だ。仕事は大抵はPJT単位で動く。営業が案件を持ってきて、営業以外のコンサルタント、デザイナー等が稼働する。そのPJTの人月が多くなればなるほどその人月を掛けた売上や粗利益を営業は持ってくる必要があります。なぜなら、間接部門の人間は直接営業できないからです。だから、彼ら彼女らの分の売上と粗利益も加味した設定をしないと年収1,000万円は貰えないということです。

今回の場合、代理店の営業という立場=直接利益を生み出したと判断しやすい立場だったので、ピンときやすかったかもしれません。しかし、この話は間接部門でも計算できます。例えば、マーケティング担当がプラットフォーマー様から今まで貰えなかったフィーチャー枠を獲得したとしましょう。そこから入ってきたインストールが3万インストールでした。1インストールあたりのLTVが200円でした。そうすると、このマーケティング担当が生み出した粗利益は3万インストール✕200円=600万円です。このように、自分が実行した施策全てを粗利益化して金額価値換算して自身のバリューを証明することが重要です。方向性としては売上のTOPラインを伸ばすやBPRによるコストカットでの利益貢献がわかりやすいかと思います。

そのような癖付けと視点で仕事をすれば、いずれほしい給与は得られるのではないでしょうか。

まとめ

アカウンティングとファイナンスはマーケターが戦う土俵での共通言語であり、知らないということは許されないことを理解しました。そこから、具体的例として「もし、私が代理店の責任者だったらどうするか」という立場で簡単に損益分岐点や固定費、変動費についての理解をしました。さらに深堀りをしてステークホルダーから期待されている利回りについて学びました。その利回りを達成するためにはどうすべきかということを感度分析という分析方法で選択することを学びました。最後に、ここまでの一連の話を個人のキャリアに応用する形でアカウンティングとファイナンスを学ぶ意義をお伝えしました。

最後までお読み頂いた読者の皆様、ありがとうございました。これ以上深くアカウンティング・ファイナンスについて学びたいという方は以下の図書をオススメします。


アンソニー会計学

具体例織り交ぜたケースが沢山載っているので初心者でもとっつきやすい。

管理会計のエッセンス

同上です。具体例織り交ぜたケースが沢山載っているので初心者向け。

コーポレート・ファイナンス(上)

こちらも具体的なケースがめっちゃ載ってるし、ケース問題も沢山あるので初心者にオススメ。ただし、前提として会計わからないと全く意味不明なので、まず上記2冊がわかってから。

財務3表一体理解法 

PL、BS、CFがどうつながっているのかを超わかりやすく解説してくれてます。最低限の会計知識があれば、これを読んでみるべし。

MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣

主にIT企業の決算書の読み方、そこから予測される未来がいくつも書かれている。アカウンティングとコーポレート・ファイナンスわかった上で読むと面白いと思います。


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