ブランドとは「唯一無二の関係」
3回目の記事では、私なりのブランディングの定義をお伝えしていきたいと思います。改めましてこんにちは、神戸で「株式会社AKIND」というブランドマネジメントに特化した会社を経営している岩野翼です。初回の記事では「マーケティングとあえて距離を置いてみるブランディング」という考えに至った個人的なブランディングに関する経験を振り返り、2回目では様々な人のブランディングの定義から、「マーケティングとブランディングの本質的な違い」について考察してみました。
私なりのブランディングの定義
ブランディングの究極の目標
前回の記事で、私はマーケティングが追求する最大公約数的な最適解では到達できない答えを追求するのがブランディングだと考え、顧客にフォーカスするマーケティングとは違い、組織の中で働く従業員も含めた包括的なアプローチを考えることがブランディングにとって重要だとも考えています。そのような前提で、私なりのブランドとブランディングの定義を以下にまとめてみました。
ブランドの究極の目標は、顧客や従業員にとって他では換えが効かない唯一無二の存在となること。そのためには、顧客や従業員が信じていることや大切にしている価値観とブランドのそれが共鳴することが大切です。また、顧客や従業員の未来にとって必要な存在と認識してもらうためには、ブランドの社会的な存在意義に共感してもらうことが重要です。私は、これからの時代、資本市場という枠組みを超えた意味を生み出すということが、ブランディングに求められていると考えています。
マーケティングとブランディングの役割を区別する
ちなみに私が経営するAKINDという会社の社名は、百年以上の歴史を持つ老舗ブランドを支えていた三方よしという「商人精神(Akindo’s Spirits)」の継承と、「唯一無二(One-of-a-akind)」というブランドの本質を表した二つの意味から生まれました。
マーケティングとブランディングの役割を区別し、取り組む必要があると考える背景には、マーケティングがデータドリブンの手法へと進化したことも影響しています。私がブランディングに関わり始めた15年程前と比べると、誰もが容易に顧客の行動や趣向に関するデータを取得できる時代となり、ブランディングが得意としたファンの育成という領域においても、CRM(Customer Relationship Management)など、企業と顧客との関係性を管理するマーケティング環境が充実してきました。現在では、マーケティングとブランディングはお互いの良い関係として役割を明確にすることで、相乗効果を高めることが求められる時代です。私は、マーケティングはより売上を的確に伸ばすための役割、ブランディングは顧客との唯一無二の関係性を築くための役割として、運用していくことが大切だと考えています。
差別化は手段でなく、取り組み
ここで、私がマーケティングとあえて距離を置き、「唯一無二」という考え方についてこだわるきっかけとなった本を紹介します。2010年にハーバードビジネススクールの教授であるヤンミ・ムンが出版した書籍「ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業」です。以下にこの本の目的がまとめられた文章を引用してみました。
市場が成熟し、たくさんの製品で溢れかえるにつれ、競争が激化し、企業は市場調査などを行うなどして、他社からの差別化を図る。市場競争の中で、競合企業を研究し、顧客の声を聞くという精度の高いマーケティングを各社が行えば行うほど、予測可能な一定の方向へと向かい、異質的同質性を帯びていく。企業が熱心に競い合うほど、その違いは消費者の目からみて小さくなっているという矛盾を彼女は指摘していました。
ブランディングにおいて、一般的な市場ポジショニングやベンチマークなどを通じた手段的な差別化アプローチではなく、「人間らしさに立ち返る」ことを踏まえて、価値観を中核においた差別化アプローチが大切と考えています。分析や診断だけでなく、傾聴や対話から生まれる洞察が唯一無二のブランドを生み出すと私は考えています。
地方都市ならではのブランディング
最後に、初回記事の中で、私の経験から非営利領域では、市場というものがあまり存在しないとお話をしましたが、地方都市における中小企業のお仕事においても、地域における市場は限定的であること、マーケティング予算があまり潤沢にないという現状を踏まえ、マーケティング起点のアプローチだけでは限界があります。もちろん、セオリーとして、細かくターゲット属性を絞ったり、競合との差別化を計ることに予算や時間を割くことも重要です。
一方で私は、組織で働く人々が「自分たちの仕事の意味はなんであるのか」、「どのような価値を生み出し、地域に貢献できるのか」と言うような個々の思いや、チームで共有できる指針を明確にし、そこに関心や共感が生まれた上で、日々の対話を重ねながら、一つひとつの仕事の取り組みの中から、一歩踏み込んだ成果を出し続けることで、結果としてブランドが差別化していくプロセスが大切だと考えています。
おわりに
今後の連載では、「百年続く、三方よしの商いを共につくる」というAKINDのパーパスに基づいた、より具体的なブランドマネジメントの実践について書いていきたいと思います。引き続き、ご興味を持っていただければ、幸いです。