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マーケティングとブランディングの本質的な違い

こんにちは、神戸で「株式会社AKIND」というブランドマネジメントに特化した会社を経営している岩野翼です。前回の記事では、私の過去のブランディングに関する取り組みについて書かせていただきました。2回目では、もう少し具体的に「ブランディングの新解釈」について考察してみます。この記事から読まれた方は、もしよろしければ、初回記事「マーケティングとあえて距離を置いてみるブランディング」も読んでいただけると嬉しいです。



ブランドとは?

ブランドとは「約束」や「絆」

私個人の英国でのブランディングの研究から始まり、国内において数々のブランディング・プロジェクトでの実践を重ねながら、私の中で「マーケティングとブランディングの本質的な違い」、「マーケティングの外にあるブランディングが果たせる役割」というものが朧げながらに見えてきたことをお伝えします。個人的な見解をお伝えする前に、私が気に入っているブランドの定義をご紹介します。まずは、ブランド論の第一人者であるDavid A. Aakerは以下のように語っています。

ブランドとは、組織から顧客への約束である。そのブランドが表すものが、機能面だけではなく、情緒面や自己表現、人間関係においても役立つという約束を守ることである。
(中略)
ブランドとは長い旅路のようなものである。顧客がブランドに触れるたびに生まれる感触や体験をもとにして、次々に積み重なり変化していく顧客との関係なのだ。

David A. Aaker

ブランドとは約束であり、変化していく顧客との関係であるというのはとても深い示唆であり、狭義のマーケティングという文脈を超えたブランディングの可能性を考えていく上で、とても素晴らしい定義だと考えています。次に国内のブランドコンサルの老舗であるグラムコのWebサイトから抜粋してみました。

ブランドとはマークやロゴや名前のことだけではなく、企業・組織とステークホルダーを結ぶ「絆」として、企業や組織のファンをつくり、社会的評価を生み、最終的には企業にプロフィットをもたらす、経営に欠かせない「無形資産」と理解されている。

参考:https://www.gramco.co.jp/brand/

ここでは、企業・組織とステークホルダーを結ぶ「絆」と表現されています。ステークホルダーには、顧客以外にも従業員やパートナーなども含まれることが読み取れ、ブランドの役割に広がりを感じます。次にブランディングの説明として、私が好きな書籍「ザグを探せ!」から、著者のMarty Neumeierの言葉を引用します。

ブランディングとは、消費者に喜びを与えることで、長期的な価値を築くことだ。(中略)ブランディングの目標はシンプルだ。消費者を喜ばせ、「多くの」顧客が、「多くの」商品を、「長い」期間、「高い」価格で買ってもらえるようにすることだ。

書籍「ザグを探せ!」

「多くの」顧客が、「多くの」商品を、「長い」期間、「高い」価格で買ってもらうという考え方は、マーケティングの究極の目標と思えますが、市場における差別化や顧客価値を起点としたマーケティングだけで到達することは難しいかもしれません。そこにマーケティングとブランディングの本質的な違いが見えてくると考えています。


時間軸で見るマーケティングとブランディングの違い

私がマーケティングとブランディングの違いを説明する際、時間軸に沿って、「プロモーション」、「マーケティング」、「ブランディング」、「イノベーション」を並べた図を用いています。


図:時間軸で見るマーケティングとブランディングの違い

私なりの見解ですので、一般的な説明との違いはあるかもしれませんが、以下に解説します。プロモーションとは、「自社の商品やサービスを広く認知させ、購入につなげる活動のこと」です。プロモーションの中には、販促のような直接的な活動も含まれ、時間軸では短い時間での成果が求められる取り組みと言えます。

次にマーケティングとは、「データ分析を起点に、商品やサービスが売れる仕組みをつくること」です。そのためには、市場データや顧客データの分析などから洞察を得て、商品から流通、コミュニケーションに至るまでの戦略を構築し、最適な予算割りを行い、常にPDCAを回しながら、短中期の視点で最適化を計り続ける取り組みと言えます。

一方で、ブランディングとは、「ブランドという無形資産のレバレッジを高め、顧客にとっての価値を最大化することで、優良顧客を育成していくこと」です。特にブランドマネジメントという言葉があるように、中長期的な視点でブランドという資産を継続的に運用する取り組みと言えます。

最後にイノベーションとは、「それまでのモノ・仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れて、これまでには認識されていなかった新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすこと」です。長期的な視点で、数多くの失敗を重ねながら新たな価値を生み出す取り組みと言えます。

対象を消費者ではなく、生活者や人間として捉える

対象を消費者ではなく、生活者や人間として捉える視点は、デザインの領域とも言えます。ちなみに経産省が掲げているデザイン経営の定義では、「デザイン経営は、ブランドとイノベーションを通じて、企業の産業競争力の向上に寄与する」とされています。 つまり、ブランディングにはデザイン思考が必須であり、マーケティング専門家とは違うスキルセットが必要であることも読み取れます。デザイン経営とブランディングの関係に関しては、また別の機会に書いていきたいと思います。

このような背景から、私はマーケティングが追求する最大公約数的な最適解だけでは、到達が難しい価値創出を追求するのがブランディングだと考えています。そして、顧客にフォーカスするマーケティングとは違い、生活者という視点に加え、組織の中で働く従業員の視点も含めた包括的なアプローチを考えることがブランディングにとって重要だとも考えています。


おわりに

次回は、私なりの「ブランディングの新解釈」に対する考えを、書いていきたいと思いますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。


株式会社AKIND 代表取締役 岩野 翼

<この記事を書いた人>
岩野 翼 | Tasuku Iwano
株式会社AKIND 代表取締役 CEO / 神戸在住 / 二児の父

英国のBrunel University ブランディング&デザイン戦略修士課程修了。2014年に「百年続く、三方よしの商いを共につくる」ことを目指し、株式会社AKINDを神戸の地にて創業。組織と地域に“前向きな変化を生み出す”ブランディングファームとして、対話型組織開発やデザイン思考のアプローチを組み合わせたブランドマネジメントを実践している。

主なプロジェクトは、Peach Aviation株式会社のブランドマネジメント、経済産業省のMVV策定、ANAグループのビジョン策定、道の駅FARM CIRCUSのブランド開発、都市ブランド戦略「食都神戸」の策定、神戸ウォーターフロントのエリアブランディングなど。