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【小説・腹黒い11人の女】ファンタジーは今も生きている人間のために(終章)
あの頃には書き切れなかった話をしようと思う。
この『腹黒い11人の女』には膨大な原稿があり、実はまだ掲載し切れていない章がある。
なぜ、書き始めたのは20年前、出版したのは10年前のこれらの作品群を2022年の今こうして再掲載しているのか、自分でもわからなかった。
書き終わったものを後生大事にしまっておくのも性に合わない。終わったものは手放してきちんと終わらせたい。
在庫一掃クリアランスセールみ
【小説・腹黒い11人の女】2012年初版出版時のあとがき
学歴もなければお金もない、身を寄せる相手もいず、もう立ち上がる元気すらない。そんな時に、若い女は一体、何処に行けばいいのでしょうか。
あの頃の私が選んだ行き場所は、都内某所にあるキャバクラでした。
手っ取り早くお金を稼ぎたかった。ちゃんと働く自信がもうなかった。前を向く事以前に、立ち上がる事さえ出来なかった。夢など全部捨てたかった。何かを信じて歩き出すことなど、もう二度と出来ないよう
【小説:腹黒い11人の女】(19)「檻の中で共食いするハムスターのような二人」
客ならば、簡単に着信拒否設定に出来る。けれど、私は永村の番号を拒否する事が出来なかった。客に対して非情になれるのは、仕事だからだ。だが、永村との関わりは仕事ではなかった。
永村からは、その日の内にメールが来た。
『予定があったのに引き止めてごめん。でも、嬉しかったよ。次はいつ会えるかな』
彼のメールからは、私の事を新しい恋愛の相手として位置づけている事が感じられた。だが、私は、永村と会
【小説:腹黒い11人の女】(18)「再会、妄執、朝に阿呆と鳴くカラス」
非通知や知らない番号からの電話は取らない。水商売を始めて三ヶ月もすれば、誰もがそうなるものだ。客はほぼ例外なくしつこく、女達が着信拒否を設定しても番号を変えて電話をしてくる。だから、私も、携帯の音が鳴るとまず表示される登録名を確認する癖がついていた。だが、私はその日、その習慣を破った。
花見も終わり、ゴールデンウィークまでやる事がない四月半ば。私は、その日、久しぶりに二連休を貰っていた。大抵
【小説:腹黒い11人の女】(16)「よくある話、過去の話、枯れ枝のような女と私」
金を貰っている以上、客を不愉快にさせてはならないのは、当たり前の話だ。私は、客に対して非常に心無いが、仕事に対する最低限の責任と義務感は持っていた。けれど、ここに勤め始めて迎えた二度目の冬の終わりかけに、私は思わず、客の前で我を忘れてしまった。
新年会も終わり、バレンタインも終わると二月は途端に暇になる。その年の寒さは一段と厳しく、女達は毎日、首をすくめて出勤していた。
平日のある日。
【小説:腹黒い11人の女】(14)「男でなければ埋められない穴、男など何の役にも立たない夜」
純の男の話は、店の中では定番の話題だ。純はいつも男を追いかけているが、大抵はすぐに別れてまたすぐに次の男と付き合っている。もう二年も恋人がいない私からしてみれば、呆れるくらいのフットワークの良さだ。
年が明けて一月。水商売はとかく年末が忙しい。さすがの純もその忙しさのせいかしばらく男の話をしなかった。だが、慌しさがようやくひと段落した今でも、相変わらず純から男の話が出てこなかった。いつもなら
【小説:腹黒い11人の女】(11)「カートのいないコートニー」
この店で一番インパクトのある女が誰かと言えば、迷いなく誰もがこう答える。コートニー。ニルヴァーナのカート・コバーンの恋人だったコートニー・ラヴが由来の名前を持つ女、コートニーだ。
コートニーが入店してきたのは、私が店に勤めて一年半近くなる頃だった。更衣室から出てきた彼女を見て、待機席にいる女達は目を瞠った。足首や首の後ろ、腰骨などにポイント程度のタトゥをしている女は今時随分いる。だが、コー